編集部レポート

総合診療勉強会「第8回 大阪どまんなか」

開催日:2016年10月22日  会場:大阪・千里ライフサイエンスセンター

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「大阪どまんなか」は,大阪大学の「地域に生き世界に伸びる総合診療医養成事業(文部科学省・未来医療研究人材養成拠点形成事業)」の一環として開催される総合診療勉強会である.主に医学生を対象としており,毎回,総合診療の分野で活躍される豪華講師陣の講演が企画されている.第8回となる今回も,山中克郎先生(諏訪中央病院),加藤浩晃先生(京都府立医科大学),矢吹拓先生(栃木医療センター),児玉和彦先生(こだま小児科)という錚々たる顔ぶれで,先生方の極意を学ぼうと約100名の医学生・研修医が参加した.ただ“受ける”講義ではなく,参加者が先生方の問いかけに真剣に向き合い,楽しく話し合う,貴重な体験の場であった.

“攻める問診”が眼前に

山中先生のセッションは,その場で参加者からあがった質問・リクエストにユーモアたっぷりに答えるところからはじまった.会場を縦横に歩き回り,参加者の目を見てときにはジェスチャーも交え,「3分間は患者さんの話をopen-end questionで聞き,3分経ったら患者さんの息継ぎとともに攻めに転じる」「病歴聴取であれもこれもと言われたら,『一番困っていることは何か』を尋ねる」「患者さんとの意志の伝達が難しいときは,ご家族・施設職員,果ては過去の診療録まで徹底的に調査する」などの姿勢を伝授された.また,病歴聴取・身体診察のレクチャーでは,山中先生と模擬患者を参加者がぐるりととり囲み,いたわる手の動きや目線の合わせ方,聴診の手技などを熱心に学んでいた.

山中先生の身体診察
山中先生の身体診察.

山中先生の代名詞ともいえるのが“攻める問診”というフレーズ.ただ,「先生ほどの経験がないと攻める問診はできないのか?」というと,そうではない.まずは,コモンな疾患のコモンな症状をよく勉強することが重要で,それが臨床にすぐに活きると話された.

非専門医でも必ずかかわる眼科診療

加藤先生は“総合診療医のための眼科診療”を主題に講演された.眼科疾患について,「専門でないから診ることはない,眼科専門医にコンサルトすればよい」と考えている先生方もあるいはいるかもしれない.しかし,眼科へのアクセスが不便である・入院している施設に眼科がないなどの理由から,眼科疾患をもつ患者を総合診療医など非専門医が診る機会は多いという.加藤先生は「『目が赤い』などの主訴は眼科医でなくてもよく相談されることだし,眼科に行っても行かなくても経過が変わらない症候もある」と話され,非専門医が目に関する訴えを診療する際押さえておくべきポイントを披露された.小誌連載「眼科エマージェンシー こんなときどうする?」の症例も呈示しながら,「『目が赤い』という症状は特別な器具がなくても大きく3パターンに分類でき,半分は結膜炎と結膜下出血で非専門医でも対処できる」「抗菌点眼薬には使用前に患者自身が混ぜなくてはいけないものもあり,高齢者への処方に注意する」「電気性眼炎の患者は深夜に受診する」などのTipsが共有された.最新の眼科診療デバイスや,非専門医が眼科診療で困ったとき眼科医にすぐに相談できるシステムなども紹介され,参加者にとって眼科診療へのハードルが下がった様子が見受けられた.

ポリファーマシーを見過ごさない

ポリファーマシー啓発のためにつくられた「ボヘミアン・ラプソディ」の替え歌をBGMに入場された矢吹先生.「愛ある処方のために」と銘打ち,グループワークを中心としたセッションが繰り広げられた.“高血圧・骨粗鬆症・変形性膝関節症で通院中の高齢女性”というシチュエーションで,患者さんが処方されている11種類の薬剤が呈示され,参加者と先生で処方に対して思うことを話し合った.参加者からは「1症状に対して複数の薬剤が処方されている」「NSAIDsの処方理由が不明確」など薬剤そのものへの意見のほか,「服用のタイミングがばらばら」「家族の状況はどうか」といった声があがり,活発な議論の背景にポリファーマシーへの関心の高さが伺えた.また,なぜポリファーマシーになってしまうのかという問題について,「罹患している疾患数の多さ」「1つの疾患に対し複数の薬剤」「prescribing cascade(薬剤による副作用治療のために新たな薬剤が処方される流れ)」「処方医は多いが薬を整理する人がいない」などがあげられ,その解決に向けた,処方検討のための各種クライテリアなどの取り組みが紹介された.矢吹先生は,「ポリファーマシーを創り出しているのはさすがに善意であろうが,薬への思いは立場によってさまざま.医療従事者はポリファーマシーの問題を見過ごさず,取り組みを続けていく必要がある」と締めくくられた.

子どもから家族へ,家族から社会へ

児玉先生の講演タイトルは『診察室は「窓」』.診察室にやってきた子どもを通して,薄く開いた窓からその家族,ひいては社会を診るというスタンスを軸に,小児診療の極意を軽妙な語り口で紹介された.診察室への入室時からすでにトリアージははじまっているといい,「歩けるはずの年齢の子が抱っこされて入室したときはその理由を考える」「呼吸困難の診察では胸骨だけでなく着席時のお腹も診る」「食う寝る遊ぶの聴取に加え,笑っているかどうかがトリアージに有効」といったポイントが動画も交えながら解説された.また実際の事例として,2歳の娘の食欲不振で受診したバングラデシュ人の一家が呈示され,“娘の診断(寄生虫)がついたその後,一家が地域で暮らしていくためのフォロー”についてのディスカッションが行われた.地域での拠り所や日本語を勉強できる場を知らせる,といった意見があがるなか,児玉先生は実際に,一家の母親とともにスーパーマーケットに行き,宗教的理由から食べることのできない食品を教えたという.このエピソードからも,「目の前の患者さんに何かしたい,手を差し伸べたい」と考えるのを止めないことが大切だというメッセージが,参加者へしっかり伝わったと思われる.

“よくばり”な勉強会

「どまんなかポーズ」での記念撮影.
「どまんなかポーズ」での記念撮影.

現在の医学部教育においては臨床推論・鑑別診断の教育が十分でないといわれており,医学生のうちから総合的に患者さんを診る視点をもつ人材を養うために発足したのがこの「大阪どまんなか」である.運営のほとんどは学生の手で行われており,講師をお願いする先生方も,代表の清田敦子さん(大阪大学医学部5年)をはじめとした学生スタッフが外部の勉強会に参加したり,書籍を読んだりして探しているとのことであった.清田さんは,総合診療医は“患者さんが一番最初に頼れる医師”であるべきだと考えているといい,「総合診療医をめざし,幅広く勉強するため,あらゆるジャンルの先生のお話を聞きたいというよくばりな会が大阪どまんなか」と話された.参加者からも積極的に発言する姿がみられ,未来の医療を担う方々の頼もしさを感じた一日であった.

なお,次回第9回は2017年1月14日(土),大阪梅田のブリーゼブリーゼホールで開催される.第8回と同様,豪華講師陣による講演が予定されており,医学生・医師であれば誰でも参加できる(要事前申込).最新情報は公式Facebook(@osakadomannaka)にてチェックしてほしい.

(編集部 清水智子)