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概論:生成AIとAI for Science

Generative AI and AI for Science
10.18958/7947-00001-0006344-00
尾崎 遼
Haruka Ozaki:理化学研究所生命機能科学研究センター/筑波大学医学医療系/一般社団法人ラボラトリーオートメーション協会

生成AIとは,膨大なデータから学習した統計的パターンにもとづき,文章・画像・音声・プログラムなどの情報を生成する人工知能技術である.その急速な発展は,一般社会の知的生産だけでなく,科学研究の進め方にも影響を与えはじめている.このような動きは「AI for Science」とよばれ,科学研究の新しい方法論として注目されている.

はじめに―日常化する生成AI

生成AIとは,膨大なデータから学習した統計的パターンにもとづき,文章・画像・音声・プログラムなどの新たな情報を生成する人工知能技術である.現在広く使われている生成AIの多くは,大規模言語モデル(LLM)などの基盤モデルを中心に発展してきた.本特集で主に扱うのは,ChatGPT,Claude,Google Gemini,CopilotといったLLMを基盤とした対話型の汎用生成AIサービスである.これらのサービスは,自然言語での指示に応じて,文章作成や要約,プログラム生成など多様な知的作業を支援する.近年はウェブ検索などの外部ツールや推論機能も備わり,情報収集やアイデア出し,文章執筆や翻訳まで,幅広い用途で活用されている.

生成AIが広く社会に認知される契機となったのは,2022年11月にOpenAIが公開したChatGPTである.その後,多様な生成AIサービスが登場し,用途に応じて複数のAIを使い分けることも一般的になった.こうした変化は日常生活にも広がっており,大学受験の小論文対策として高校生が生成AIを利用する実証実験が報じられている1).企業でも業務効率化や新規事業検討に生成AIを活用する事例が増えている.日本政府でも導入が進み,デジタル庁は政府職員が利用できる生成AI環境を開発し,「ガバメントAI」の一環として各府省庁での活用を進めている2)

この変化は大学教育にも及んでいる.例えば東京大学では,生成AIツールの利用を一律に禁止するのではなく,適切な利用方法について指針を示しつつ教育での活用を検討している3).文部科学省も大学・高専における生成AIの教学面での取り扱いを整理し,利活用の可能性や留意点を各機関に周知している4)

研究の現場でも生成AIの利用は広がっている.論文執筆では文献調査や文章校正,翻訳などに活用されることが多く,主要出版社のなかには,適切な開示を条件にAIの利用を認める方針を示すところもある5).科研費申請についても,日本学術振興会は生成AIの利用を禁止しておらず,著作権侵害や機密情報漏洩のリスクへの注意を促している6).一方,米国NIHは,その大部分が生成AIによって作成された申請書は認めないとの方針を示しており7),今後各国でポリシー整備が進む可能性がある.さらに,プログラミングや図表作成などでもAIの利用は広がり,研究活動のさまざまな段階で生成AIは実務的な道具として浸透しはじめている.

「AI for Science(AI4S)」(科学のためのAI)

近年,「AI for Science(AI4S)」(科学のためのAI)という言葉が急速に広まり,科学技術政策や産業界でも重要なキーワードとなっている.AI4Sは,特定の科学研究の課題そのものをAIで解決する試みと,文献調査,仮説生成,実験,データ解析,論文執筆など研究プロセス全体にAIを組み込み研究を効率化・自動化する試みの両面をもつ.

前者の例として,タンパク質構造を予測するAlphaFold8),DNA配列から遺伝子発現を予測するEnformer9),ゲノム言語モデルEvoやEvo210)11)などがあげられ,AIがタンパク質,遺伝子制御,ゲノム配列といった生命科学の複数の階層における研究手法を変えつつある.後者の例としては,研究プロセスを支援・自動化するAIエージェントが登場している.GoogleのAI Co-Scientistは,研究者の指示から新しい仮説や研究計画を提案するマルチエージェント型の研究支援システムとして開発され12),スタンフォード大学などの「Virtual Lab」では,AIエージェントがナノボディ設計を行い,実験的検証にも成功している13)

こうした動きは科学技術政策にも反映されている.日本では,理化学研究所にて科学研究向け基盤モデルの開発をめざす「科学研究基盤モデル開発プログラム(AGIS)」などの取り組みが進められ,文部科学省の令和7年度補正予算でもAI4Sが重要分野と位置づけられている.米国でもGenesis Missionのもとでエネルギー省(DOE)がAI4Sを推進し14),欧州や中国でも国家レベルでAIと科学研究の融合がめざされている15)

企業による取り組みも活発である.Google DeepMindはAlphaFoldや材料探索AIなどを通じて科学研究への応用を進め16),Microsoftは「Microsoft AI for Science」プログラムを展開している17).さらにOpenAIやAnthropic,NVIDIAなども,大規模基盤モデルや計算基盤を通じて科学研究のAI活用を支える存在となっている18)

研究コミュニティでも議論は活発化している.2025年にはAIエージェントと研究者の協働を議論するワークショップ「Agents4Science」が開催され19),日本でも2026年3月には生物物理学会とラボラトリーオートメーション協会によって「生成AI・AGI時代の学術出版」と題したシンポジウムが開かれるなど20),AIが論文執筆や査読をどう変えるかが議論された.

AI4Sに流れ込む3つの潮流

現在のAI4Sは,①科学実験の自動化,②深層学習の科学応用,③基盤モデルの登場という3つの潮流の合流として理解できる().

図 AI4Sに合流した3つの潮流
科学実験の自動化,深層学習の科学応用,基盤モデルの登場という3つの技術的潮流を,代表的な研究・出来事により模式的に示した.網羅性や年代の厳密性を意図したものではない.

第一の潮流は科学実験の自動化である.2009年にはKingらが仮説生成から実験実行までを統合したロボット科学者「Adam」を報告し21),Opentronsによる実験ロボットの低コスト化22),谷内江らによる多数の実験ロボット群による遠隔実験基盤をめざす「Robotic crowd biology」構想23),さらに自律的に化学実験条件を探索する“A mobile robotic chemist”などの研究が進んだ24)

第二の潮流は深層学習の科学応用である.2015年にはDNA配列とタンパク質結合の関係を深層学習で予測できることが示され25),2018年のCASP13ではAlphaFoldがタンパク質立体構造予測で従来手法を大きく上回る性能を示した8)

こうした流れのなかで,2019年にはアルゴンヌ国立研究所のRick Stevensが「AI for Science」と題した講演において,既存AIの科学への応用,科学のニーズに特化したAIの開発,AIと実験自動化の統合という3つの方向性を示した26)27).さらに2021年に北野はかねてより提唱していた「Nobel Turing Challenge」を改めて定義し,AIによる科学的発見の自動化というビジョンを提示している28)

そして第三の潮流が基盤モデルである.2021年にスタンフォード大学の研究者らは,大規模データで事前学習された汎用モデルを多様なタスクに適応させる「基盤モデル」という研究パラダイムを整理した29).特にマルチモーダル基盤モデルは,テキスト,画像,音声など多様なデータを統合的に扱うことが可能であり,科学研究とも相性がよい.近年では視覚・言語・行動を統合したロボット基盤モデルも登場し,例えばRT-2は視覚言語モデルの知識をロボット制御へ転移できることを示している30)

このようにAI4Sは,ロボットによる実験自動化,深層学習による科学データ解析,基盤モデルという3つの潮流の重なりのなかで発展してきた.AIはもはや単なる解析ツールではなく,仮説生成から実験実行,結果解釈まで研究プロセス全体を支援する基幹技術となりつつある.

本特集について

生成AIの話題を耳にする機会は急速に増えているが,多くの研究者にとっては「知ってはいるが,自分の研究にどう使えばよいかわからない」という段階ではないだろうか.本特集は,そうした読者が生成AIを実際に使いはじめるための「学び直し」(現代風に言えばリスキリング)の機会として企画した.

実験医学誌の読者層を対象とした2017年のウェブアンケートでは,読者の約85%が25歳以上であった31).この比率が現在も大きく変わっていないとすれば,筆者自身を含め,読者の多くは中山の稿で言及される「高校時代に確率統計を選択科目として学ばなかった世代」に属する可能性が高い.同じアンケートでは「生命科学・医学研究のスタイルを大きく変えそうなキーワード」として「人工知能」「データ科学」「実験ロボット」が上位にあげられており,AI4Sの潮流はすでに10年前から予見されていたとも捉えられる.そこに現在,生成AIという新しい技術の波が重なりつつある.研究の方法が変わるならば,私たち自身もまた学び直さなければならない.幸い,人は何度でも学び直すことができる.

本特集では,生成AIを研究者の仕事のさまざまな場面でどう使うかという観点から,実践的な事例を紹介する(概念図).まず中山の稿は,生成AIを「月額20ドルの東大生インターン」として使いこなすという比喩を用い,AI時代に研究者に求められる思考法や役割の変化を論じる.松澤らの稿は,ChatGPTやNotebookLMを例にアカウント登録から基本的な使い方までを紹介し,生成AIに触れるための最初の一歩を示す.

概念図 本特集の構成

研究そのものへの応用としては,岡田・鄭の稿が論文執筆に焦点を当て,タイトル決定からDiscussionまでの各フェーズでAIとどのように共働するかを解説する.瀬尾の稿はDry解析の観点から,AIがコード生成や実行を担う時代において「AIに指示する能力」と「AIに従う能力」が重要になることを示し,データ解析の新しいスタイルを整理する.さらに笹川らの稿では,電子実験ノートや動画ログを起点とするウェット実験DXを取り上げ,実験の暗黙知を記録・構造化することでAI活用につなげる試みが紹介される.

研究を取り巻く環境にもAI活用は広がっている.橋谷の稿は研究室管理業務の自動化を例に,生成AIとプログラムを組み合わせて定型業務を効率化し,研究時間を確保する実践を紹介する.また山田の稿は,業務情報を集約してAIエージェントと協働する方法を提示し,研究者が自分専用のAI環境を構築するための実践的アプローチを示している.

このように本特集は,心構えから入門,研究,研究環境,そしてAIエージェントまで,研究活動のさまざまな場面で生成AIをどう使うかを具体例とともに示すことをめざした.どの記事も,それぞれの現場で試行錯誤してきた研究者による実践知である.ここで紹介される方法がすべての研究者にそのまま当てはまるとは限らないが,自分の研究に引き寄せて試してみることで,新しい研究スタイルを見つける手がかりになるはずだ.

おわりに

生成AIは,文章作成やプログラミング,論文執筆など研究者の日常業務に入り込み,知的生産のあり方を変えつつある.まずは身近な用途から実際に使い,自分の研究に引き寄せて試してみることが重要だろう.一方で,生成AIは誤情報(ハルシネーション)やバイアスを含む出力を返す可能性があり,学習データや推論過程が不透明な場合も多い.そのため,結果を鵜呑みにせず,原典確認や再現性の観点から検証を行い,人間の判断と責任のもとで活用する姿勢が不可欠である.生成AIの普及と活用の広がりは,研究プロセス全体をAIとともに進めるAI4Sの潮流ともつながっている.生成AIを使いこなす経験は,将来の研究支援AIや自律的な研究システムと向き合うための基礎にもなる.その先にある問いが,続く特集2「AI活用のその先 研究の完全自動化へ挑む」であろう.

生成AIを日々の研究に取り入れることと,研究の完全自動化を展望することは,連続した一つの変化のなかにある.本特集はその入口として,生成AIを研究活動に取り入れるための実践例を紹介した.ここで得たヒントを手がかりに,ぜひ自身の研究のなかでAIを活用してほしい.

文献

1) 日本放送協会:受験合格の“必須アイテム”にAI? 正しい使い方は. https://www.nhk.or.jp/shutoken/info/articles/310/030/35/(2026年3月閲覧)

2) デジタル庁:デジタル庁職員による生成AIの利用実績に関する資料を掲載しました. https://www.digital.go.jp/news/08ded405-ca03-48c7-9b92-6b8878854a74(2026年3月閲覧)

3) utelecon:AIツールの授業における利用について(ver. 1.0). https://utelecon.adm.u-tokyo.ac.jp/docs/ai-tools-in-classes/(2026年3月閲覧)

4) 文部科学省:大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて. https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2023/mext_01260.html(2026年3月閲覧)

5) 池内有為:情報の科学と技術, 76:89-92, doi:10.18919/jkg.76.2_89(2026)

6) 日本学術振興会:令和8(2026)年度基盤研究(A・B・C)、挑戦的研究、若手研究の公募について. https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/02_koubo/kiban.html(2026年3月閲覧)

7) NIH GRANTS&FUNDING:Apply Responsibly: Policy on AI Use in NIH Research Applications and Limiting Submissions per PI. https://grants.nih.gov/news-events/nih-extramural-nexus-news/2025/07/apply-responsibly-policy-on-ai-use-in-nih-research-applications-and-limiting-submissions-per-pi(2026年3月閲覧)

8) Google DeepMind. https://deepmind.google/science/alphafold/(2026年3月閲覧)

9) Avsec Ž, et al:Nat Methods, 18:1196-1203, doi:10.1038/s41592-021-01252-x(2021)

10) Nguyen E, et al:Science, 386:eado9336, doi:10.1126/science.ado9336(2024)

11) Brixi G, et al:Nature:1–13, doi:10.1038/s41586-026-10176-5(2026)

12) Gottweis J, et al:arXiv, doi:10.48550/arXiv.2502.18864(2025)

13) Swanson K, et al:Nature, 646:716-723, doi:10.1038/s41586-025-09442-9(2025)

14) CSIS:The Genesis Mission: Can the United States’ Bet on AI Revitalize U.S. Science?. https://www.csis.org/analysis/genesis-mission-can-united-states-bet-ai-revitalize-us-science(2026年3月閲覧)

15) CRDS-FY2025-RR-05:AI for Science の動向 2026 ─ AIトランスフォーメーションに伴う科学技術・イノベーションの変容. https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2025/RR/CRDS-FY2025-RR-05.pdf(2026年3月閲覧)

16) Google DeepMind. https://deepmind.google/blog/google-deepmind-supports-us-department-of-energy-on-genesis/(2026年3月閲覧)

17) Microsoft:Microsoft Research AI for Science. https://www.microsoft.com/en-us/research/lab/microsoft-research-ai-for-science/(2026年3月閲覧)

18) Reuters:US Energy Department signs AI collaboration deals with Big Tech for Genesis Mission. https://www.reuters.com/business/retail-consumer/us-energy-department-taps-big-tech-ai-powered-research-push-2025-12-18/(2026年3月閲覧)

19) Bianchi F, et al:Nat Biotechnol, 44:11-14, doi:10.1038/s41587-025-02963-8(2026)

20) AI for Publication 2026:生成AI・AGI時代の学術出版〜著者がAI、編集部もAI、の世界を議論する〜. https://lasa.or.jp/events/ai4pub2026/(2026年3月閲覧)

21) King RD, et al:Science, 324:85-89, doi:10.1126/science.1165620(2009)

22) Opentrons:Opentrons & IGEM Partnership. https://opentrons.com/archives/news/opentrons-igem-partnership(2026年3月閲覧)

23) Yachie N, et al:Nat Biotechnol, 35:310-312, doi:10.1038/nbt.3758(2017)

24) Burger B, et al:Nature, 583:237-241, doi:10.1038/s41586-020-2442-2(2020)

25) Alipanahi B, et al:Nat Biotechnol, 33:831-838, doi:10.1038/nbt.3300(2015)

26) Speakers:AI for Science. https://pearc.acm.org/pearc19/speakers/index.html(2026年3月閲覧)

27) Rick S, et al:OSTI.GOV, doi:10.2172/1604756(2020)

28) Kitano H:NPJ Syst Biol Appl, 7:29, doi:10.1038/s41540-021-00189-3(2021)

29) Bommasani R, et al:arXiv, doi:10.48550/arXiv.2108.07258(2021)

30) Google DeepMind. https://deepmind.google/blog/rt-2-new-model-translates-vision-and-language-into-action/(2026年3月閲覧)

31) 実験医学編集部:実験医学, 35:2182-2185(2017)

尾崎 遼:2015年東京大学大学院新領域創成科学研究科情報生命科学専攻博士後期課程修了.理化学研究所を経て,’18年より筑波大学医学医療系生命医科学域准教授.’25年より,理化学研究所生命機能科学研究センターAI生物学研究チームチームディレクター.専門はバイオインフォマティクス,特に塩基配列解析,シングルセルRNA-seqデータ解析,研究自動化.’25年末にコールドスリープしたPerfumeのファン.

探索範囲の拡大こそAIの醍醐味

「仮説の空間」を考えてみる.この空間の1つの点が1つの仮説に対応し,研究とはその点を探索する営みである.生命科学の歴史は,多くの研究者が広大な空間を試行錯誤しながら切り拓いてきた過程ともいえる.しかし実際には,分野の細分化や競争の構造により,探索は局所的かつ重複的になりがちである.生成AIやAI4Sにより,所与の探索範囲の枠内で,研究者が有望な仮説を選択する効率や仮説を検証する速度は増大しつつある.しかし次の段階は,探索範囲自体の拡大であろう.それは単に探索を加速するだけでなく,研究者一人ひとりの関心や視点を外へ外へと押し広げ,分野を越えた施行を可能にすることで,結果として研究者集団としての探索の多様性を高め,探索範囲を拡張する方向であるべきだと考えている.そうした世界の実現に向けて,私たちの研究室では,AIやロボットが日常的に存在する研究環境そのものの設計に取り組んでいる.(尾崎 遼)