クローズアップ実験法

2013年9月号 Vol.31 No.14 詳細ページ
Cytoscape による細胞内分子間相互作用ネットワークの解析
斎藤輪太郎,大野圭一朗
Cytoscape による
細胞内分子間相互作用ネットワークの解析
斎藤輪太郎,大野圭一朗

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bute)を付与しそれを VizMapper(後述)を用いて視

はじめに

覚要素へのマッピングを行い可視化するというもので

近年さまざまな実験技術の進歩により生体内で起こ

ある(図1)
.ネットワーク生物学では多くの場合,ノー

る分子間相互作用や遺伝的相互作用を網羅的に調べる

ド( node)が遺伝子やタンパク質などの細胞内分子 ,

ことが可能になってきた.同時にこのような相互作用

エッ ジ( edge)がそれらの間 の相 互 作 用 を表 す .

や ,機能的に関連性の強い分子の対 (機能的リンク )

Cytoscape では各対象をノード,対象間の関係をエッ

をコンピュータで予測する手法の開発も進められてい

ジとして扱い,その集合をネットワークとよぶ.

る.このような分子間の相互作用の集合,すなわち分

各分子やその相互作用に関する多くの情報は属性と

子間相互作用ネットワークの解析によって生命現象を

して保持されている.図1 A,B に示すように,各ノー

解明することを目的とする分野を「ネットワーク生物

ドにはノード属性(node attribute)
,エッジにはエッ

学」という.われわれの研究室で開発されたソフトウェ

ジ属性(edge attribute)を付けることができる.属性

ア Cytoscape 1)は分子間相互作用ネットワーク解析を

は各対象の性質を表すものである.典型的ノード属性

容易にするプラットフォームである(図1).

としては遺伝子名や遺伝子の発現量,遺伝子オントロ

本稿では,Cytoscape の基本的な使い方と機能拡張

ジによる機能アノテーションなどがあり,エッジ属性

ソフト App を用いたネットワーク解析についてごく手

としては相互作用の種類(物理的相互作用か,遺伝的

短に紹介する.なお本文中で利用されたデータや紹介

相互作用かなど)や結合の強さなどがある.これらは

しきれなかった情報は,すべて筆者らのウェブサイト

表形式(table)で格納されている.Cytoscape はこれ

にて入手可能である.

らの情報をネットワーク上に統合し(図1 C)
,可視化

2)

を行う(図1 E ⑥).
Cytoscape での可視化とは,VizMapper(図1 D)

Cytoscape の概要

による属性から視覚的要素への対応付けである.例え

Cytoscape の中核概念は,ネットワークに属性(attri-

ば遺伝的相互作用を表すエッジは赤,物理的相互作用

Analyses of molecular interaction network within a cell using Cytoscape

Rintaro Saito/Keiichiro Ono:Department of Medicine, University of California, San Diego(カリフォルニア大学サンディエゴ
校医学部)E-mail:risaito@ucsd.edu(斎藤)/kono@ucsd.edu(大野)

実験医学 Vol. 31 No. 14(9月号)2013

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