クローズアップ実験法

2023年3月号 Vol.41 No.4 詳細ページ
赤色光による遺伝子発現の光操作
佐藤守俊
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赤色光による
遺伝子発現の光操作
佐藤守俊

何ができるようになった?
赤色光で制御可能な新たな光スイッチタンパク質(MagRed)と CRISPR-Cas9 システムを用いた
遺伝子発現の光操作技術(Red-CPTS)により,狙った遺伝子の発現を赤色光で自在に操作できるよ
うになった.赤色光は生体組織透過性が高いため,細胞のみならず,マウス等の生体の深部の組織や
臓器における遺伝子発現を効率よく操作することも可能.

必要な機器・試薬・テクニックは?
本技術は 3 つのタンパク質プローブと 1 つのガイド RNA(sgRNA)からなる.いずれも Addgene
に寄託予定.光照射には LED 等の赤色光源を利用する.

はじめに

は青色光を吸収すると互いに結合する 2 つのタンパク

われわれは,生命現象の光操作技術を開発している.

質のペアであり,操り人形で言えばヒモとか棒に相当

細胞や生体に光を照射し,その光で分子レベルの現象

する,光操作の基盤技術である.Magnet の開発によっ

を意のままに操作しようというのだ.光が得意とする

て,青色光で指令を与えて生命現象に関与するさまざ

高い時間・空間制御能をもってすれば,狙ったタイミ

まなタンパク質の働きを私たちの意図で操作すること

ングでのみ,かつ狙った部位でのみ,さまざまな生命

が可能になった.Magnet を応用した光操作技術に関

現象をコントロールできるかもしれない .このような

する研究が進む一方で,Magnet の課題も明らかになっ

※1

てきた.青色光は生体組織透過性があまり高くないた

と名付けた光スイッチタンパク質を開発した .Magnet

め,例えば生体外から青色光を照射した場合に操作可

期待を実現すべく,われわれは 2015 年に「Magnet」
1)

能な部位は,生体表面から近い組織や臓器に限定され
てしまう.この技術的な課題を克服するためにわれわ
※ 1 Magnet:われわれのグループが開発した光スイッ
チタンパク質.アカパンカビ(

)が

れは最近,赤色光でコントロール可能な新たな光スイッ

有する小さな光受容体の Vivid に対して多角的にプロテイ

チタンパク質「MagRed」を開発した(図 1)2).赤色

ンエンジニアリングを施して開発されたタンパク質の対で

光は青色光に比べると生体組織に吸収されにくく,生

ある.

体深部にまで届きやすい.例えば,赤色光のレーザー

Optical control of gene expression by red light
Moritoshi Sato:Graduate School of Arts and Sciences, The University of Tokyo 1)/Kanagawa Institute of Industrial Sci(東京大学大学院総合文化研究科 1)/ 神奈川県立産業技術総合研究所 2))
ence and Technology(KISTEC)2)
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実験医学 Vol. 41 No. 4(3 月号)2023
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