クローズアップ実験法

2025年3月号 Vol.43 No.4 詳細ページ
トランスオミクスネットワークを構築・解析するウェブツール「iTraNet」
杉本 光,黒田真也
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トランスオミクスネットワーク
を構築・解析するウェブツール
「iTraNet」
杉本 光,黒田真也

何ができるようになった?
mRNA やタンパク質,代謝物などを網羅的に測定したオミクスデータを比較的手軽に取得できる時
代になった.しかし,それらがどのように相互作用しているのかを推定するにはさまざまなハードル
があった.そこで,複数種類の生体内分子の関係を繋いだネットワーク「トランスオミクスネットワー
ク」を簡便に構築・解析できるウェブツール「iTraNet」を開発した(https://itranet-a.streamlit.
app/)
.

必要な機器・試薬・テクニックは?
インターネット接続環境が整っていれば,iTraNet は無償かつノーコードで誰でも使用可能なウェ
ブツールである.

はじめに

のかはわからない.そこでわれわれは,オミクスデー

生命はどのような設計図からどのようにつくられて

タから mRNA やタンパク質,代謝物がどのように相互

いるのだろうか.20 世紀より続く分子生物学や生物情

作用しているのか推定し,その分子ネットワークの構

報学などの多くの分野の研究により,どのような分子

造を簡便に解析できるウェブツール「iTraNet」を開

群が生命を設計しているのか明らかになってきた.さ

発した 1).これまでさまざまな分子の相互作用を推定・

らに 21 世紀に入り発展した RNA-seq や質量分析器に

解析することには手間がかかるうえに,多くのデータ

より,生体を構成する mRNA やタンパク質,代謝物の

ベース情報を使う必要があるために再現性が低いとい

「量」を網羅的に計測したオミクスデータを取得するこ

う問題があった.iTraNet により,簡便かつ再現よく

とが可能になってきた.オミクスデータから,どのよ

このような解析を行えるようになると考えられる.

うな分子の「量」がどのような条件下で有意に変化す
るか簡便に解析できる優れたウェブツールもつくられ
てきた.しかし,
「量」の変化だけではさまざまな分子
がどのように相互作用することで生命を形作っている

原理
iTraNet はユーザーがアップロードしたトランスク

iTraNet:A web-based platform for integrated trans-omics network visualization and analysis
Hikaru Sugimoto 1)/Shinya Kuroda 2):Department of Biochemistry and Molecular Biology, Graduate School of Medicine,
(東
The University of Tokyo 1)/Department of Biological Sciences, Graduate School of Science, The University of Tokyo 2)
京大学大学院医学系研究科 1)/ 東京大学大学院理学系研究科 2))

実験医学 Vol. 43 No. 4(3 月号)2025

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