クローズアップ実験法

2025年8月号 Vol.43 No.13 詳細ページ
20色に光る細胞を一度に捉える! 複数の生物発光を同時に観察する方法
服部 満,永井健治
384

20色に光る細胞を一度に
捉える! 複数の生物発光
を同時に観察する方法
服部 満,永井健治

何ができるようになった?
生物発光タンパク質の発光波長を調整することで,選択できる発光色の幅が広がった.さらに,カ
ラーカメラを活用することで,従来のモノクロカメラでは困難だった,多数の異なる発光色を示す細
胞の同時観察が実現可能となった.

必要な機器・試薬・テクニックは?
生物発光細胞の同時観察には,カラー CMOS カメラ,顕微鏡鏡体,暗幕などの遮光装置,発光基
質(ルシフェリン)を用いる.装置系の構築には高度な光学の専門性を必要としない.

はじめに

トルアンミキシングなどの画像処理を行う必要が生じ

個々の細胞を識別し追跡する手法は,細胞解析にお

てくる.言うまでもなく顕微鏡関連の装置や部品は高

ける基本的かつ不可欠な技術である.顕微鏡を用いて

額であり,複雑な操作を要するほど,研究予算との兼

生きた細胞を観察している研究者であれば,その識別

ね合いに悩まされる.また画像処理は,正確に行わな

に蛍光分子を用いることは一般的な選択であろう.現

ければ,得られる結果が歪められるおそれがあり,専

在では,さまざまな波長の蛍光分子が溢れており,目

門的な知識も求められる.

的に応じた波長の蛍光分子を選択することは容易い .

ホタルの光に代表される生物発光は,生物発光タン

しかしながら,観察対象が複数になると,その選択肢

パク質(ルシフェラーゼ)と発光基質(ルシフェリン)

は対象数に応じて限られていく.蛍光は励起光の波長

との反応により生じる化学発光である .近年では深海

に依存して発生するため,複数の蛍光分子が共在する

エビ由来のルシフェラーゼを改良した高輝度なNanoLuc

サンプルを顕微鏡で観察する場合には,適切な光源と

(Nluc)が普及しており 1),その応用範囲は顕微鏡など

光学フィルターの組み合わせによる制御が必要となる.

による光学イメージングにも拡大している.励起光を必

それでも,同時に観察できる蛍光の種類は通常 5 ∼ 6 種

要としない生物発光の原理は,背景光の低減 ,高い定

程度に限られ,それを超える場合には蛍光波長の重複

量性,さらには光毒性を考慮する必要がないことなど,

(オーバーラップ)が問題となり,画像取得後にスペク

標識分子として選択するに値する利点を有している.

Imaging of cells emitting 20 different colors: A method for simultaneous observation of multiple bioluminescent signals
Mitsuru Hattori/Takeharu Nagai:SANKEN (The Institute of Scientific Industrial Research), The University of Osaka(大
阪大学産業科学研究所)
2138

実験医学 Vol. 43 No. 13(8 月号)2025
会員でない方はこちら

羊土社会員についてはこちらをご確認ください.