実験医学2023年1月号 インタビュー・座談会

がんのウイルス療法開発物語 〜新分野を切り拓くためのPersistence

藤堂具紀
特別インタビュー

がんのウイルス療法
開発物語
rsistence
新 分 野 を 切り拓 くた め の Per
話し手:藤堂

具紀

(東京大学医科学研究所先端医療研究センター先端がん治療分野教授)

2021 年 6 月,国内初のがんに対するウイルス療法薬「テセルパツレブ(以下 G47Δ)」が厚生労働省からの製造
販売承認を受けました.脳腫瘍に対するウイルス療法薬としては世界初の承認となります.G47Δの開発者である藤
堂具紀博士は,その開発のみならず,医師主導治験を中心的に進めてこられました.本インタビューでは,ウイルス
療法薬「G47Δ」の特徴や現状,前例のない新規モダリティ医薬品の承認までの道のり,そして将来ウイルス療法
が担っていく役割についてのビジョンなどを,開発者ならではの視点で語っていただきました.(編集部)
収録日時・場所:2022 年 10 月 3 日・東京大学医科学研究所

ウイルスをがん治療薬として利用する
|まずはがんのウイルス療法についてお尋ねします .

G47 Δは単純ヘルペスウイルスⅠ型(HSV-1)とい
うウイルスに遺伝子組換えを施して作成されたウイル
ス療法薬です.実は,大抵のウイルスは正常細胞と比

これはどのような治療法なのでしょうか?

べてがん細胞においてより増殖しやすいことが知られ

がんのウイルス療法とは,正常細胞では増えず,が

ています.これは,ウイルスが感染するとタンパク質

ん細胞だけで増えるウイルスを遺伝子組換えによって

合成をシャットダウンしてウイルスの増殖を抑制する

作り出し,ウイルスそのものをがんの治療薬として利

という機構ががん細胞で働かないためです.それゆえ

用するという,新しいがんの治療法です.ウイルスを

世界中で様々な種類のウイルスを治療薬にする研究が

がん細胞に感染させると,ウイルスが宿主のがん細胞

行われています.

で増え,外へ散らばる過程でがん細胞を破壊する,と

実は,開発当初は HSV-1 のがんに対する有効性がそ

いうわけです.ウイルスが細胞に感染して増殖し,宿

こまで高いという認識はありませんでした .しかし ,

主の細胞を殺すという自然のライフサイクルを,正常

研究を行うにつれて他のウイルスと比べてがん治療薬

細胞では起きないようにすることで薬にしています.

に向いている点が多々あるということがわかってきま

また実際に私がウイルス療法の作用機序を研究して

した.まず,通常のウイルスは感染する細胞が限られ

いた過程で,がん細胞を直接破壊するメカニズム以外

ていますが,HSV-1 は細胞の選り好みをしないので,

に,がん免疫が大きな役割を果たすことがわかってき

多様ながんに使えます.また,HSV-1 は強力な殺細胞

ました.すなわち,第一段階としてウイルスによるが

作用を持っており,投与後に増殖して周囲のがん細胞

ん細胞の破壊が起こり,これによってがん細胞に対す

も破壊できます.さらに,HSV-1 がもつ遺伝子の機能

る免疫が活性化され,免疫細胞によるがん細胞への攻

は解明されており ,遺伝子工学的な操作が可能です .

撃が第二段階として生じる,という作用機序です.

ゲノムサイズが大きいため外来遺伝子の導入の余地が
大きいことも開発に適した特長です.それから HSV-1

|そのなかで藤堂先生の開発されたウイルス療法薬 ,
G47 Δについて教えていただけますか?
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には抗ウイルス薬がありますので,万が一ウイルスが
過剰に増殖しても止める手段があります.そして一番

実験医学 Vol. 41 No. 1(1 月号)2023
続きは本誌にて御覧ください.
この記事の掲載号

実験医学2023年1月号
中分子ペプチド医薬で新たな標的を狙う!!

門之園哲哉/企画