クローズアップ実験法

2022年12月号 Vol.40 No.19 詳細ページ
超速成長・超速老化魚ターコイズキリフィッシュの遺伝子機能高速解析法
荻沼政之,阿部耕太,足立朋美,石谷 太
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超速成長・超速老化魚
ターコイズキリフィッシュ
の遺伝子機能高速解析法
荻沼政之,阿部耕太,足立朋美,石谷 太

何ができるようになった?
新たな老化モデル生物として注目されている小型魚類ターコイズキリフィッシュのノックアウト個
体と蛍光ノックインレポーター個体の作製を F0 世代で行うことができる技術を開発した.

必要な機器・試薬・テクニックは?
ターコイズキリフィッシュを安定に飼育することができ,受精卵にインジェクションするコツさえ
掴めば簡単に遺伝子機能を調べることができる.コツの詳細は本プロトコールにて記載する.

はじめに

も短命と目されるターコイズキリフィッシュ(通称キ

近年の老化研究の加速度的な発展により,老化を制

リフィッシュ)だ(図 1)
.今回われわれは,キリフィッ

御する因子の候補が次々と報告されている .しかし ,

シュの遺伝子機能を高速・高効率に解析する技術を確

これらが真に老化にかかわることを証明するためには,

立したのでここに紹介する 1).

実験動物において人為的に活性を変化させて健康寿命
に影響することを示し,さらに作用機序を解明する必
要がある.これまで,このような老化解析は,代表的
なモデル生物であるマウスや線虫,ショウジョウバエ

原理
キリフィッシュ(学名

)
,は

などを用いて行われてきた.しかし,マウスはもとも

アフリカ原産で体長 5 cm 程度の小型魚類である.ライ

との寿命が長く,老化しにくいため,老化解析に膨大

フサイクルが非常に早く,特にキリフィッシュの GRZ

な時間がかかるという問題があった.また,線虫やショ

系統(ジンバブエ Gona-Re-Zhou 国立公園から採取さ

ウジョウバエは寿命が短いため,老化解析を短期間で

れた)は孵化後 1 カ月で性成熟し,その後 2,3 カ月で

行えるという利点があるものの,無脊椎動物であるた

急速に老化して死に至る“超速成長・超速老化”とい

めヒトとは体の構造が大きく異なり,ヒト老化モデル

う特徴をもつ.またキリフィッシュは,色素の減少や

としては不十分であった.これを解決すると期待され

背骨の湾曲,腫瘍形成,神経変性,運動能や学習能の

ているのが,研究室で飼育できる脊椎動物のうちで最

低下といった,数多くの老化形質をヒトと共有するこ

Rapid reverse genetics systems for
brate aging

, a suitable model organism to study verte-

Masayuki Oginuma/Kota Abe/Tomomi Ohmura-Adachi/Tohru Ishitani:Department of Homeostatic Regulation, Division
of Cellular and Molecular Biology, Research Institute for Microbial Diseases, Osaka University(大阪大学微生物病研究所
生体統御分野)

実験医学 Vol. 40 No. 19(12 月号)2022

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