[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第56回 多様化する大学とキャリア戦略

「実験医学2015年2月号掲載」

就職活動に業界研究はつきものだが,研究者を目指す者にとっても,自分がどのような世界に入っていこうとしているのか,その世界がいまどのように変化しつつあるのかを知ることは重要であると思う.

去る2014年10月に文部科学省の有識者会議で提起された大学制度改革に関するプレゼンテーションが,G型大学/L型大学というキーワードとともに話題となっている.簡単に内容を紹介すると,現在の大学のうちごく一部のトップ校をグローバル人材の育成機関として位置づける一方,その他の多くの大学を,ローカルな経済圏の労働需要に適した人材をより効率的に生み出すための教育機関として,職業訓練校化を射程に構造改革していこうという内容である.このプレゼンテーションはその過激な物言いでも注目を集めているが,この種の大学制度改革に関する議論自体は昨今現れたものでは決してなく〔e.g. (1998)「ハード・アカデミズムの時代」(高山 博/著),講談社,1998〕,実際この20年近くで大学を含むアカデミアのあり方は大きく変容してきた.

例えば,国公立大学の独立行政法人化(2014年〜)や今年度からはじまったスーパーグローバル大学事業は,大学間の個性化・差別化を図るものだし,研究者間の差別化は競争的資金制度の拡充にみられるとおりである.一方,学部や学科の名称の一部に「キャリア」がついた大学が多くあることに象徴されるように,一部大学の職業訓練校化・就活予備校化もすでに進行している.

こうした大学制度改革に対して,どのような意見をもつかは人それぞれだと思うが,私を含む大学院生や若手の研究者にとって共通する興味は,そのような環境の変化のなかでどのようなキャリア形成がありえるのかという点だろう.このOpinionコーナーは,キャリア形成の問題が大きなテーマとして掲げられており,アカデミアか企業か(第24回),起業(第27回)などさまざまな選択肢についてそれぞれの立場から意見が述べられてきた.

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「テツヤ、国際学会いってらっしゃい」

脳科学若手の会では先日,キャリアプランをテーマにした談話会を開催した.この談話会では,異なるキャリアパスを歩んだ3名の講師をお招きし,さまざまなキャリアの可能性について議論した.一人は修士卒で企業に就職後博士課程に入学した方,一人は博士卒後企業研究者として就職した方,一人は博士卒後研究成果の事業化を支えるベンチャーキャピタルに就職した方,とバラエティに富んだメンバーをそろえた.博士号取得者の数に対する職の少なさという構造的な問題があるにせよ,個人のキャリアについて考えるとき重要なのは,多様なキャリアがありうることを認識し,選択肢を広げることだ.このコーナーを執筆している各若手の会でもさまざまなセミナーが開催されていると思うので,情報源や人材交流の場としてぜひご活用いただければと思う.

民間企業への選択肢がある一方,やはり多くの大学院生・ポスドクは大学を含むアカデミアでの就職を考えていると思うが,大学教員に求められる能力も,大学と連動して多様化している.例えば私が所属する東京大学では,大学教員を目指す大学院生向けにフューチャーファカルティプログラムを開講しており,教育者としての能力を向上させることを目的に講義やワークショップを開催している.冒頭で紹介したL型大学のような枠組みの中では,教員は研究者としてではなく教育者としての役割を強く期待されており,実際現在では,教員の採用場面でも教育能力・実績がさまざまな形で問われることも多い.このようなプログラムを通じて,教育者としての側面から他者との差別化を図ることも当然戦略の一つだろう.

私たちのまわりには,研究者としてのキャリア以外にもさまざまな可能性が広がっているが,日常の研究生活の中でそうした職へのアクセスは案外限られている.脳科学若手の会としても,時代のニーズに合ったセミナーを開催できるよう,努力していきたいと思っている.

村井祐基(脳科学若手の会)

※実験医学2015年2月号より転載