[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第78回 忘れられない先輩研究者からの言葉

「実験医学2016年12月号掲載」

「次のポストはどうする?」若手研究者,大学院学生との会話のなかで,これまで最も多く話題に上ったトピックではないかと思う.研究者に“なる”ことの難しさは想像がついても,研究者として“生き残る”ことの厳しさは,まだまだ雲に隠れて見えない山頂のようだ.それだけに,みな想像を巡らし,どうしたら辿り着けるのかという議論は熱くなる.国際学会などのコーヒーブレイクやポスター発表で隣り合った若手たちと,この手の話題は必ずと言っていいほど盛り上がることからも,このことは万国共通であると思う.そのなかで,諸先輩方からこぼれた言葉は,非常に実感がこもっていて,胸に沁み,多少耳が痛い.本稿では,そんなありがたくも鋭い言葉を紹介したい.

筆者は学位取得後,幸運にもすぐに助教職に就かせていただいた.ただ,つい先月まで学位論文に必死になり,実験だけで精一杯だった自分が,翌月には大学教員として授業を担当するなど,もはやどのような顔をして教壇に立てばよいのかわからず,戸惑いの連続だった.研究に学会といったこれまでの仕事に加え,授業や委員会,大学行事など,大学教員としての仕事はどんどん増えていく.さらには,研究会や講演といったさまざまなお誘いを受ける機会もどんどん増えていく.嬉しい反面,どう優先順位をつけたらいいのかと迷っていた時に,とあるアクティブな教授から,「誘ってもらったら“イエス”か“はい”しか答えはない」との,力強いお言葉がガツンと返ってきた.まだ修行中の身である若手研究者にはあらゆる経験が足りていない.ギアをあげて,いろいろな経験を積みなさいとのことだ.

[オススメ] 時間がない,お金もない,でもここにアイデアがある!

「時間と研究費(さいふ)にやさしいエコ実験」

新しい経験で手一杯になっている頃,さらにのしかかってきたものがある.研究費だ.学科の仕事について説明をしてくれたベテラン教授が,去り際に一言,「それと,お金(研究費)もちゃんととってね」と,あくまでさらっと言われた言葉が非常に重かった.正直に言えば,研究以外の仕事がまだあるのか,とぐったりしてしまった.しかしながら,実際に過去5年間の研究費取得状況は,研究職の公募において評価対象である.“研究費の獲得”=“研究環境を整えること”であり,それこそが独立した研究者として必要な資質の1つであるのだと思う.

研究者同士の横のつながりは,学会や研究会,それらに付随した研究者交流会を介して広がっていくことが多いのではないだろうか.身近な知人に誘われたことがきっかけで参加した,という方も少なくないように思う.そういった会からの帰り道に,ある先輩研究者が,「研究者交流会に誘ってもらえる=アクティブな状態だ」と話していた.交流会に参加しているということは,自身や研究室のメンバーが学会に出入りしており,そのための研究成果もある程度出ていることを示しているのだそうだ.自身の状況のアクティブさをあらわす1つのバロメーターとして,ずっと心に残っている.

読者の皆様はこれらの言葉を聞いてどのように思われただろうか? 筆者にとって,これらの言葉は,暗中模索な研究者の道のりの中で,大事な手がかりとなっている.それでは,なぜここまでして困難な道を歩もうとするのだろうか?周囲の方々に聞いてみた.すると,ほぼ全員が「それでも研究が楽しいから」と口を揃えた.筆者は,“それでも”の部分に万感の想いが込められているように感じた.楽な仕事ではない.“それでも”研究の楽しさを知ってしまったから,頑張っていこうと思う.

山川智子(大阪大学理学部生物科学科)

※実験医学2016年12月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2016年12月号 Vol.34 No.19
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片岡直行,前田 明/企画

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