[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第85回 どうしてる? 若手研究者の学会発表

「実験医学2017年7月号掲載」

学生をはじめとする若手研究者にとって学会発表には大きな意味がある.

現場で手を動かすバイオ系の若手研究者が学会参加をどのように捉えているかを探るために,筆者らが所属する生化学若い研究者の会では,第56回生命科学夏の学校参加者を対象にアンケートを行った.限られた母集団ではあるが,学部生22人,修士学生27人,博士学生29人,その他8人から,興味深い回答が得られたので紹介したい.

多くの学生は学会に参加・発表することを非常に好意的に捉えていた.最適と考える年間の学会参加頻度に関する回答では,「2回」が大半を占め(66%),「0回」は選択されなかった.学会参加・発表の意義としては,研究のモチベーション向上(87%)が顕著であり,情報収集(26%),研究者間の交流促進(21%)なども挙げられた.学会発表は,研究成果を取りまとめるきっかけになるだけでなく,外部の研究者からのフィードバックが期待できるという利点がある.もちろん,学生の学会発表をどの程度奨励するかは,所属する研究室や関連する研究分野によって異なる意見が存在する.一方で,学会発表の経験は,就職活動時の自己アピール素材となりうるだけでなく,日本学生支援機構の奨学金返還免除や日本学術振興会の特別研究員をはじめとするさまざまな申請書に記載できるため,学生にとっては見過ごせないポイントである.

学会発表の経験について―国内で学会発表を経験したことがある人の割合は,大学院生(博士・修士課程)では93%であり,学部生でも50%であった.このうち口頭発表経験がある人は全体の55%であった.また,発表を行わずに学会に参加したことがある人の割合は37%であった.一方,国際学会発表の経験者の割合は,博士課程では31%,修士課程では15%,学部生では0%と,それほど高くなかった.高額な旅費や参加費が必要であることに加え,研究成果が論文に掲載された後に発表することにしている研究室もあるため,在学中に国際学会で発表することは敷居が高いようである.

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学生が学会発表を行う場合の経費負担について―研究室負担という回答は全体の57%で,大学負担が17%,自己負担が26%であった.一方,興味のある学会には自腹でも参加するとの回答は92%と,多くの割合を占めていた.学会に参加したいと考える学生にとって幸いなことに,学生の参加費は一般参加者と比べて低く設定されていることが多く,ときに無料となる場合もある.また,海外で開催される国際会議で発表する場合には,財団などが公募する旅費助成に申請できる可能性がある.若手枠が設けられている場合もあるが,学生のなかには制度を知らない人も多いため,シニア研究者の助言も大事になるだろう.若手支援を目的とした制度をうまく活用して学会に参加できれば,視野を広げるよい機会となるはずだ.

学会発表は学生にとってさまざまなメリットがあり,モチベーション向上に有効であるという点からも,機会があればその経験を積んでもらいたいと考える指導者は少なくないはずだ.そこで,積極的に学会参加・発表を考えている学生は,研究を頑張ることに加えて,適度に自分の希望をPIにアピールしてみてはいかがだろうか.例えば今冬には,生命科学分野の広い分野の学会が企画・協賛する「2017年度生命科学系学会合同年次大会」が神戸で開催されるため,学会の雰囲気を知りたいと思っている若い学生にとってはちょうどよい機会となるかもしれない.いきなり学会に参加するのは気が重いという学生は,学会と比べて参加への敷居が低いサマースクールなどへの参加を勧めたい.最近では,各学会の若手研究者が中心となって運営する若手向けの集会も増えてきており,選択肢は多い.このような場は貴重な交流の機会ともなるため,キャリアパスの可能性を拡げる役にも立ちそうだ.

杉山康憲,豊田 優(生化学若い研究者の会 キュベット委員会)

※実験医学2017年7月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2017年7月号 Vol.35 No.11
ユビキチン化を介したオルガネロファジー
不要なオルガネラを認識・分解するオートファジー

松田憲之/企画
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