[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第81回 がん研究の明日を担う人材育成とは?

「実験医学2017年3月号掲載」

トランスレーショナルリサーチ(translational research:TR)とは,医薬品・医療技術の安全かつ有効な実用化に向けて開発者(研究者ら)と応用者(臨床医ら)が互いに実験結果や治療効果を積極的に議論し,フィードバックし合う研究開発の過程をさす.例えば昨今ではがんの治療以外に用いられてきた既存薬の抗腫瘍効果に着目した治療戦略(ドラッグリポディショニング)が注目を浴びている.既存薬はすでにヒトに対する安全性や薬物動態などが検証されているため,PhaseⅠとよばれる健常人を対象とした治験のステップを省略でき,臨床応用の実現までに要する時間やコストを大幅に短縮できる.

本記事では,2017年12月にノースカロライナ州で開催された米国の若手臨床腫瘍医師25名を対象としたThe Society for Translational Oncology Fellows’ Forum(STOFF)に参加した際に感じた,「がん研究の明日を担う人材育成とは何か?」という内容について論じたい.STOFFの主宰者であるマサチューセッツ総合病院のBruce Chabner博士は,ジヒドロ葉酸レダクターゼが過剰発現しているリンパ腫や肺小細胞がんを対象に葉酸代謝拮抗薬メトトレキセート(MTX)を大量投与する治療法を開発するという,抗がん剤治療の黎明期から活躍している臨床医である.最近では,がん細胞表面に高発現している葉酸トランスポーターを標的とした抗体医薬品による新規治療開発を進めている.

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それでは,本題である「次世代の日本のがん研究を担う人材育成」について私見を述べたいと思う.

臨床現場でがん治療に携わりながら治験に代表されるTRに強い興味をもっている米国の若手腫瘍内科医師らの特徴は,なんといってもその「自己主張性」と「積極性」であった.STOFFの参加者と会話していると言葉の節々に自分たちが,がん研究の担い手として中核を成していることを自覚していることが感じられる.(なかにはただの自信過剰なタイプもいるのだろうが….)

一方で,日本のMDの意識はどうだろうか? 一般的に日本人医師・研究医は,医学部受験や進級の過程で,カリキュラムで要求されている知識や問題をいかに早く正確に暗記するかという淘汰圧から選択されてきた集団である.周囲を意識し過ぎるあまり,「KY(空気 読めない)」だと自粛して思ったことを発言しない傾向も認められる.さらに悪いことに「ゆとり教育」の導入もあってか,日本の医学教育の自慢だったはずの受動的な学力や知識への渇望さえも失われつつあると感じている.PhD/MDコースの導入など入学後早めに研究にかかわっていくという変革的なカリキュラムが日本中の医学部で充実していることは確かだ.しかしながら,疾患の病態生理を理解していない段階で医学研究を早めに行うだけでは,やはり長期的に1つのテーマに向かって実験研究を実行していく動機につながらない危険性も潜在している.むしろ私自身の経験を例に考えてみると,医学部4〜6年生や研修医を対象とした臨床病理症例検討会(clinico-pathological conference:CPC)に積極的に参加したことが,今のがん研究の強い動機になっている.対照的にアメリカの医師は,TRの基盤ともいえる研究デザインにおいて自ら問題点を見出し,どうすれば臨床応用に直結するTRができるのかを模索,議論し合う.たとえそれが目上の人間であろうとも,経験の少ない人間であろうとも有用な意見は積極的にとり入れていく.その図々しいほどの「狡猾さ」が日本人には足りない気がする.国民性と一言で片づけるにはあまりにも医療の質を損ねかねないこの大きな本質的な違いをどのように乗り越えていく

最後に,STOFFに御推薦,派遣してくださった中外Oncology学術振興会議の関係者の皆様に,感謝の意をあらわしたいと思う.

吉田 剛(東京医科歯科大学難治疾患研究所/日本学術振興会特別研究員PD)

※実験医学2017年3月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2017年3月号 Vol.35 No.4
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