[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第83回 研究費獲得にクラウドファンディングという選択肢を

「実験医学2017年5月号掲載」

そろそろ科研費の申請結果が通知されはじめる時期ですが,科研費のような競争的研究資金に加えて別の研究費を集める方法として,クラウドファンディングという手もあります.クラウドファンディングとは,アイデアをもつ起案者(以下,挑戦者)がプロジェクトを実現させるためにインターネット経由で寄付をよびかけ,共感した人(以下,サポーター)から広く資金を集める方法です.さまざまな分野で利用されていますが,学術分野でもクラウドファンディングで研究費を集める動きが世界的に広がっています.今回は,日本初の学術系専門のプラットフォーム「academist」への取材をもとに,研究者がクラウドファンディングを活用することについて述べたいと思います.

これまでにacademistを通して,学生から教授までさまざまな立場の方々がクラウドファンディングに挑戦し,研究費を集めることに成功されています.東京大学の学生の方は「太古の海洋爬虫類モササウルスの眼の機構を調べたい!」というテーマで海外渡航費や薬品代として38万円ほど,徳島大学の准教授の方は「統合失調症の鍵を握るタンパク質の構造に迫る!」というテーマで論文掲載や学会発表の費用として42万円ほどの支援を集めていらっしゃいます.また若手だけでなく教授陣からの挑戦もあり,「組み換えカイコで『リソソーム病』の治療薬を作りたい!」というテーマで1,000匹の遺伝子組換えカイコや試薬の購入費として120万円ほどを集められました.このようにクラウドファンディングでは,テーマ全体で研究資金を獲得する科研費などとは異なり,不足している特定の研究活動資金をピンポイントで集めることができます.

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「科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック」

クラウドファンディングの成功において重要なポイントは共感を得ることです.そのため,読者に「おもしろい」「応援したい」と思ってもらえるような紹介文やキャッチーなビジュアルを作成するなどの表現の工夫が必要となります.また,標本や研究にまつわるグッズのプレゼントなどの,サポーターへの対価(以下,リターン)も挑戦成功のための大きなポイントとなります.リターンを考えたり制作したりする労力がたいへんだと思われるかもしれませんが,その点は数々のノウハウをもったacademist運営側からのバックアップによって,各テーマに合ったリターンを決めることができます.

競争的研究資金とクラウドファンディングの最も異なる点は,研究のアピールのしかたです.前者が限られたフォーマットに則って特定の審査員に対して申請を行うのに対し,後者ではインターネットを通して自由な形式でたくさんの人に支援をよびかけます.そのため,クラウドファンディングでは研究者自らがTwitterやFacebookといったSNSを通じて情報を発信する必要があります.SNSの利用は慣れていない人にとって少したいへんかもしれませんが,申請用紙には表現しづらい熱意を紹介動画にしてぶつけるなど,インターネットを介したさまざまな方法で直接的に訴えかけることができます.これまで競争的研究資金の申請ではアピールしにくかったテーマでも,クラウドファンディングなら資金獲得のチャンスがあるかもしれません.

クラウドファンディングは競争的研究資金にとって代わるものではありませんし,その独自の性質のために苦労する面もあるかもしれません.しかし,あと少しお金があればこのテーマを完結させることができた,この実験を行うことができたという,研究者の「あと一歩」を補ってくれるものだと思います.これまでの競争的研究資金に加えて別の研究費確保の道を求めている方にとって,クラウドファンディングは新たな選択肢になるのではないでしょうか.

池田明加,川出野絵(生化学若い研究者の会 キュベット委員会)

※実験医学2017年5月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2017年5月号 Vol.35 No.8
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