[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第100回 こんなところにも!?バイオフィルム研究の魅力

「実験医学2018年10月号掲載」

読者の皆様は“バイオフィルム”をご存知ですか? 生命科学研究者の方であれば,一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか.最近,一般向けの広告でも目にすることもあり,ご存知の人が増えていると思います.ではバイオフィルムとはいったい何者でしょう?

「バイオフィルム」と聞いて,専門家であれば,「微生物が人工物や生体組織などの表面に付着して形成する膜状の構造体」や「微生物が自身の産生する物質によって覆われた状態の,固体表面に形成される集合体」といったことを想起すると思います.この微生物自身が産生する物質は,バイオフィルムマトリクスとか細胞外マトリクス,あるいは細胞外高分子とよばれ,バイオフィルムの形成に重要な構成要素です.分野外の方々は,これらの「物質=バイオフィルム」と認識(誤解)されている場合が多いのではないでしょうか? じつは,それらによって“微生物の細胞”が覆われていることが重要なのです.例えば,医療現場では,バイオフィルムはカテーテルなどの医療器具の表面に形成された場合,難治性の感染症の原因になりえます.それは,病原菌がバイオフィルムマトリクスに覆われることで抗生物質や免疫が効かなくなるためです.バイオフィルムマトリクスは,いわばシェルターもしくはバリアとして機能するわけですが,多くの場合,感染の主役は病原菌です.よって,バイオフィルムのなかに微生物が存在することが重要なのです.

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このようなバイオフィルムは,身近なところにも多く存在します.例えば,バスタブや台所のヌメリ,歯垢などもバイオフィルムの一種だといわれています.近年では,その概念も拡張されつつあり,固体表面に付着していなくても微生物の細胞が集塊をつくっている場合や,寒天培地上のコロニーもバイオフィルムに含めるというような風潮があります(異論・反論もあるようですが…).近年,このようなバイオフィルムが注目されている理由は,先ほどの難治性感染症の例に留まらず,動植物の病気,水道管の詰まり,船舶の金属腐食といったさまざまな問題に関連しているからです.つまり,バイオフィルムは医学・生命科学だけにとどまらず,工学や環境問題といった幅広い学問分野において重要であり,きわめて学際性の高い研究題材だといえます.

欧米人特有の遺伝病である嚢胞性線維症と緑膿菌などのバイオフィルムに関連した感染症が深くかかわっているなどの理由から,欧米では,各国においてバイオフィルムに特化した研究組織が設立されており,研究がさかんです.日本でも,2014年に日本バイオフィルム学会がスタートし,筆者の所属する大学でも本邦初となるバイオフィルム研究センターが2015年に設立されました.日本バイオフィルム学会では,若手研究者の育成の観点から若手ワークショップを開催しています.バイオフィルム学会学術集会では発表できないような学生でも気軽に発表でき,若手中心に活発な討論を行えることをめざしています.現在は,バイオフィルム学会学術集会の一部として開催されており,無料で参加できます.また,年に2回のペースでニュースレターを作成しており,学会員であれば誰でも最新論文の解説や関連した国際学会レポート,留学先のラボの紹介記事などを読むことができます.ご興味をおもちの方がいらっしゃいましたら,是非,ご参加いただけたらと思います.きっとわれわれの身近なところにいる微生物の生き様を垣間見ることができるでしょう.

杉本真也(東京慈恵会医科大学/バイオフィルム若手の会)

※実験医学2018年10月号より転載

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