[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第92回 若手の会,参加するだけではもったいない

「実験医学2018年1月号掲載」

若手,特に学生の時期に研究室を出て普段会えない人々と交流することは得るものが大きい.過去の本コーナー記事でも紹介されているように,各種の若手の会はまさにそのような機会を提供するものである.しかし,当然のことながら若手の会は無償で成り立っているわけでなく,有志たちによって時間とお金をかけて運営されている.そして,その手間は決して小さいものではない.筆者も,過去に「臨海・臨湖若手の会」と「Evo-Devo青年の会」という若手の会の運営に携わり,年に1度泊まり込みの集会を開催していた.必要な準備は多岐に渡った.年会テーマを複数回の綿密なミーティングを行ったうえで決定し,助成金の申請書を執筆し,招待講演者との連絡を取り,会場と宿泊場所の確保を行い,懇親会の段取りを考え…毎年会が終わった後には疲労困憊であった.もちろん若手の会の規模や性質により,かける労力も変わってくるだろうが,どのような会だろうと若手時代の研究に専念できる貴重な時間とエネルギーを費やさなければならない点は一緒だろう.

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「時間と研究費(さいふ)にやさしいエコ実験」

では,若手の会運営は研究分野の発展のためのやむない犠牲なのかというと,それはそうではない(もしくはそうであってはならない)と筆者は考えている.実際には運営側に参画することで,先に挙げたデメリットを上回りうるさまざまなメリットを得るチャンスがある.まずなにより,集会を自分(達)の好きなようにオーガナイズできるという点である.これにより,自分が勉強したいトピックや,解き明かしたい疑問に対して,第一線の研究者の方とテーマに興味をもつ参加者と共に徹底的に議論できる機会を能動的に作り出すことができる.例えば,マリンゲノミクスのエキスパートを招待した第21回臨海・臨湖若手の会や形態学と大進化をテーマに掲げた第9回Evo-Devo青年の会は,海産無脊椎動物のゲノム比較から発生/形態の進化を理解することを目指す筆者にとって,最新の知見を吸収しディスカッションするまたとない好機となった.もう一つの大きなメリットは人とのつながりである.一参加者として出席しても人とのつながりは増えるが,運営に参画した場合は得られるつながりの太さが段違いであったように思う.特に,一線級の研究を行う招待講演者の方々と個人的に親しくなれる点は大きい.また,運営活動を通じて構築される幹事同士のつながりも筆者には大変ありがたかった.学術的な悩みからごくごく個人的なことまで,気軽に相談できる相手ができたことは,研究活動そのものだけでなく,精神的な面でも筆者の研究人生に確実にプラスであった.その他にも,シニアの方に名前を覚えてもらいやすくなったり,研究集会に参加者を集めるコツや助成金獲得のノウハウを得られたりと多くの利点が存在した.

以上のように,若手の会運営は研究人生にいくつものメリットをもたらすポテンシャルがある.しかし,繰り返しになるが,若手の会運営は貴重な研究のための時間とのトレードオフであることを忘れてはならない.それゆえに,今もしくはこれから若手の会の運営をする方は,義務感等に囚われずに,はばかることなく自分のメリットを追求して構わないと思う.運営にもメリットがある形をつくることが,若手の会のサステイナブルなデザイン,ひいてはその分野の振興につながるのではないだろうか.

守野孔明(筑波大学生命環境系/Evo-Devo青年の会OB)

※実験医学2018年2月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2018年2月号 Vol.36 No.3
「病は気から」の謎に迫る Neuroimmunology
ストレス・痛み・神経疾患と炎症・免疫反応のクロストーク

井上 誠/企画
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