[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第96回 海外大学院への進学という選択肢

「実験医学2018年6月号掲載」

研究者の世界で留学というと,学位取得後のポスドク留学や,国内の大学院在籍中に1年程度短期留学するようなケースが一般的だろう.しかし,海外の博士課程に直接進学するというパターンもある.その場合,日本の博士課程に所属しながらの短期留学とは一味違う留学生活を送ることになる.筆者の一人(筆頭著者)は昨年日本で学部を卒業し,直後にアメリカの博士課程(5年一貫制)に進学したが,自分がなぜ留学しようと思ったのかを自問自答したり,他の留学生と話し合ったりするなかで,海外大学院への進学(大学院留学)を志す理由は人によってさまざまであることに気づいた.そこで本稿では,筆者らの考える大学院留学の主な魅力を見ていきたい.

まず,(国や大学によって事情は異なるものの)海外の博士課程という環境自体が有している魅力がありそうだ.その一つとしてよく言われるのは,研究室の壁を超えた人脈の築きやすさだ.例えば筆頭著者が所属している神経科学のプログラムでは,1年目に集中的に講義・実習を受講することになっており,同級生と一緒に過ごす時間が長い.また研究所全体でも,毎日タダでコーヒーとクッキーが出てくるコーヒーアワーがあり,主にクッキー目当てに所内の人々が決まった時間にラウンジに集まってくる.そのため,他の研究室の大学院生やポスドクと気軽に話す機会が非常に多い.こうして知り合った人々は,学位取得後の進路選択における相談相手やロールモデルにもなり得るだろう.また他の研究室で進行中の研究について気軽に話を聞けることは,端的に言ってとても楽しい.

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「研究留学のすゝめ!」

一方で,何らかの理由で自分の置かれている現状を変えたいという場合にも,大学院留学は魅力的な選択肢となり得る.特にアメリカの大学院博士課程では,学科やプログラムにもよるが,1年目の授業で当該分野の体系的な知識と一通りの基本的な実験手技をカバーしているおかげで,他学部出身の学生でもその分野に移行しやすくなっているところもある.神経科学を例にとると,筆頭著者は学部時代は医学生だったため理論寄りの研究に触れることは少なかった.しかし現在は授業の宿題等で神経回路の数理モデルの実装を経験するなど,ふんだんに理論寄りの神経科学に触れる機会を得ている.それらの経験のおかげで,今後の自身の研究に理論的要素を導入できる可能性も広がりつつある.

また,留学する理由が必ずしも学問的なものである必要はない.例えば日本の外で生活してみたい,あるいは自分自身を異文化に放り込んで何が起きるかみてみたい,だから大学院留学を選択する,ということだってある.前述の通り,留学中にはさまざまな立場の人と知り合うし,学生寮に住んだりルームシェアしたりすれば,他分野の学生や学外の人と一緒に暮らす機会もあるだろう.留学生の多い国や大学であれば,出会う人々の文化的背景も人それぞれなはずだ.そのような多様な人々とともに過ごす数年間は,よくも悪くも自分自身が大きく変わる可能性を秘めた時間になるはずだ.そのような可能性を楽しめる人間にとっては,大学院留学は人生のなかで最もエキサイティングな期間になるかもしれない.

もちろん,海外の大学院にせよ国内の大学院にせよ,一介の大学院生である筆者らがすべての長所短所を把握しているわけではないし,手放しに海外の大学院の方が国内より「良い」と主張するつもりもない.ただ,大学院進学を考えている読者のなかには,海外の大学院の方が国内の大学院より「向いている」人もいるはずだ.そのような人にとって,本稿が大学院留学という選択肢を検討するきっかけになれば幸いである.

水口智仁,落合佳樹,戌亥 海(生化学若い研究者の会キュベット委員会)

2017年7月より公益財団法人中島記念国際交流財団日本人海外留学奨学生として米国・プリンストン大学に留学中.

※実験医学2018年6月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2018年6月号 Vol.36 No.9
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