[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第121回 研究生活に欠かせない「相棒」

「実験医学2020年7月号掲載」

研究を行うにあたり必要なものは何だろうか.幅広い知識,論理的思考力,不屈の心…それらはもちろん不可欠であるが,道具の力を借りればより快適な研究生活を送ることができるかもしれない.筆者はタブレット端末とスタイラスペン(Apple pencil などのペン型入力装置)を愛用しており,これらの導入により研究生活がぐっと快適になった.それまでは印刷した論文の整頓に苦労していたが,導入後はいくらでも持ち運びでき,書き込みもできる.いわば研究生活の「相棒」だ.道具ひとつでこんなに変わるのかと驚いたのをきっかけに他の研究者たちの「相棒」を聞いてみたいと思い,若手研究者を対象にアンケート調査を行った.

予想以上に多様な道具が揃う結果となった.使用する場面ごとに見ていこう.まずは作業時間の長いデスクワークだ.パソコンは処理能力重視ならデスクトップ型,持ち運びしやすさ重視ならノート型やタブレット端末など,自分の作業スタイルに合ったものを選びたい.文献管理アプリ(PaperpileやMendeley)を勧める声もあった.論文を執筆する段階になって苦労しないよう,日頃から文献を整頓し管理することが重要である.無料で使えるものもあるので,導入を検討してみてはいかがだろうか.また腕時計型のウェアラブル端末をタイマーとして使っている人もいるようだ.通知の確認や,音楽を聞くことができるなど,スマートフォンを取り出す手間がないところも魅力的だ.単調な作業のストレスはブルーライトカット眼鏡やワイヤレスイヤホンが軽減してくれることだろう.ちょっとした煩わしさから解放されるだけで作業はうんと捗るものである.

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効率の良い作業には集中と共に適度な息抜きも重要である.睡魔と戦いながら作業しても効率が悪い.いっそお気に入りの枕を導入し,こっそりと短い午睡でリフレッシュするのもいいかもしれない.また,家庭用コーヒーマシンがあれば手軽に本格的なコーヒーを楽しめる.マシンを無料でレンタルできるサービスもあり,コストパフォーマンスが高い.コーヒーを飲みながらディスカッションすることで新たなアイディアが浮かぶこともあるかもしれない.

学会等の出張に目を向ければ,名刺,マイレージカード,航空機用オーディオジャック変換アダプタ,プレゼンター(プレゼン資料を手元で操作できるデバイス)が挙げられていた.名刺は人脈を繋ぐのに非常に便利である.フリーソフトと名刺用紙で簡単に自作もできるので,個性豊かなオリジナル名刺を作ってみるのはいかがだろうか.顔写真を入れるのも効果的だ.また,国際学会などの長距離移動を快適に過ごしたければ変換アダプタは持っておきたいところだ.もちろんマイルを貯めるのも忘れずに.学会会場の発表設備がいつも整っているとは限らない.自前のレーザーポインター付きプレゼンターを持っていくと安心だろう.

さまざまな場面で役立つものとして興味深かったのがボイスレコーダーである.その用途は2 つに分かれていた.1 つは発表練習時に録音し,後に再生して反省するという用途,もう1 つはハラスメント対策という意見もあった.指示等の「言った,言わない」で揉めることを防ぐためにも,ボイスレコーダーが一役買う場面があるのかもしれない.

本アンケート調査によりさまざまな場面で多様な「相棒」が愛用されていることがわかった.共感できるものから新たな発見まであり,たいへん充実したアンケート調査となった.筆者は早速枕について調べ始めたところである.道具ひとつで作業環境が大きく変わることもある.効率アップのためにいくつか導入を検討してみるのはいかがだろうか.

本稿の執筆にあたりアンケート調査にご協力いただいた皆様に心より感謝を申し上げます.

本間りりの,中川香澄(生化学若い研究者の会 キュベット委員会)

※実験医学2020年7月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2020年7月号 Vol.38 No.11
環境因子と発がん
喫煙・肥満・アスベストによるがん発生機構からがんの“予防”に挑む

戸塚ゆ加里/企画
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