[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第128回 OIST-科学技術の万国津梁-で過ごす学生生活

「実験医学2021年2月号掲載」

「国際性と学際性を軸にした新しい大学院を設立する.」その理念のもと2011年に開学した沖縄科学技術大学院大学(OIST)は,沖縄県恩納村のコバルトブルーの海が一望できる丘の上にある.この大学院は5年一貫制の博士課程のみを有しており,公用語が英語,学振DC並の経済支援,分野の垣根なく研究できるカリキュラムなど,一般的な日本国内の大学院とは異なったシステムだ.筆者は国内の大学院で修士号を取得し,2019年9月にOISTに入学して一年半弱が経過したが,学生生活の面でもOISTは他の国内の大学院とは大いに異なると感じる.そこで本稿では国際色豊かなOISTでの学生生活について紹介したい.

OISTには非常に多様な博士課程の学生が在籍している.学生全体に占める外国人の比率は82% (2020年9月時点)で,日本国外から進学した学生が大多数だ.現在在籍している学生の出身地域も,アジアや欧州を中心に42カ国・地域と幅広い.これほど多国籍の学生が集まる大学院は日本にはないのではないだろうか.また,同じ学年でも年齢層にはかなり幅がある.日本では修士課程を修了してからすぐに博士課程に進学することが一般的であるが,筆者の同級生には企業等で働いた後にOISTに入学した学生が少なからずいる.なかにはパートナーや子どもと一緒に移住してきた学生もいる.このような多様なバックグラウンドをもつ同級生とともに過ごすことは,研究だけでなく今後の人生を考えるうえで参考になることが多い.

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研究室での生活も国際性に満ちている.筆者が所属するタンパク質工学・進化ユニットは,研究室主宰者(PI)およびポスドクが全員海外出身だ.そのために,研究室内でのミーティングやPIとの個別ディスカッション,ラボメンバーとの会話はもちろん英語である.筆者が以前所属していた研究室を含め,ラボミーティングを英語で行う研究室はもちろんあるが,大半のメンバーが日本人であることが多いのではないだろうか.現在所属する研究室では,ラボメンバーの国籍は多種多様である.さらに,自分を含めたほとんどのメンバーは英語が母語ではない.生まれ育った文化的,社会的背景が変われば,英語の言い回しや内容の理解のしかたも大きく変わってくる.このような多様性のある環境でラボメンバーと円滑にコミュニケーションを進めようとすることは,専門性と語学力を同時に磨く絶好の機会といえよう.

研究以外の生活も日本の大学院としては特殊と感じることが多い.その一つが大学内宿舎での生活だ.OISTに入学した学生は最低でも最初の1年間は大学内の宿舎に住み,大半の学生はルームシェア生活を送る.筆者は約1年間イギリス人のルームメイト2人と住んでいたが,彼らと一緒に映画を見たり,互いに料理をふるまったりと交流する機会が多々あった.またコロナ禍以前はホームパーティが頻繁に開かれ,多くの学生とお酒を交わしながら趣味や文化,科学の話などができたのは楽しいひとときであった.ただ,このような環境での生活は決して楽しいことばかりではない.研究室から帰ってくると予告なくホームパーティが開かれていたり,急に人が泊まりに来たりするなどびっくりすることがあった.互いの妥協点を探っていく過程は,時にストレスフルに感じることもある.しかしそれは,異なる価値観をもった人と交渉をする貴重な経験にもなりうる.

OISTの有する国際的な環境は,日本にいながらまるで海外に留学しているかのようだ.かつて 万国津梁 ばんこくしんりょう の国として栄えた琉球王国のように,科学で世界とつながるOISTは目覚しい発展を遂げている.筆者も科学技術を通して世界の架け橋になれるよう,国際色豊かなOISTの環境で日々研究に励んでいきたい.

※ 詳細はOIST大学院公式HPをご覧ください

落合佳樹(沖縄科学技術大学院大学 タンパク質工学・進化ユニット)

※実験医学2021年2月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2021年2月号 Vol.39 No.3
治療の概念が変わる かゆみのサイエンス
その理解から皮膚炎の悪循環を断ち切れ

入江浩之,椛島健治/企画
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