「救急外来ドリル」掲載・2026年5月13日公開
外傷患者は救急外来に数多く訪れますが,その多くは軽症です.交通事故は年々減少し,2025年の発生件数は287,236件,負傷者数は338,294人,死者数は2,547人でした1).交通事故死者数が最も多かった都道府県は,1位が神奈川県,2位が東京都, そして3位が北海道でした.これを人口10万人当たりの死者数の順位にすると,1位が滋賀県,2位が高知県,そして3位が大分県です.施設による違いもあるとは思いますが,研修医の先生も重症外傷よりもバイタルサインが安定した軽症外傷患者を診る機会の方が圧倒的に多いと思います.そのような場合に重要なことは何でしょうか.外傷自体の重症度が低ければ緊急手術になることは少ないかもしれません.そうなれば帰宅可能と判断しがちですが,本当にそうでしょうか?
つまずいて転倒,滑って転倒など,受傷機転が明確であるならば外傷の重症度が患者さんの重症度となりますが,意識を失った結果,外傷を伴っている場合にはその限りではありません.受傷原因こそが重症度に影響するのです.救急外来で経験する外傷患者の受傷機転の代表例は以下の通りです.
・房室ブロックなどの不整脈→失神
・てんかん→痙攣→胸腰椎圧迫骨折
・消化管出血などによる貧血→失神→大腿骨近位部骨折
・その他,ベンゾジアゼピン系薬や降圧薬といった薬剤による起立性低血圧など
転倒した患者さんが外傷性くも膜下出血様の頭部CTであっても,実は内因性のくも膜下出血が原因で転倒していたとしたら,対応は大きく異なり予後も当然変わってきます.また,アルコールを飲んでいる患者さんの転倒では,アルコールが原因と考えがちですが,内因性疾患による転倒であったり,さらには転倒に伴い頚髄損傷を起こし動けないこともあります.なぜ転倒したのか,なぜ動けないのかなど,“なぜ”を常に大切にしてください.
引用文献
1)e-Stat:道路の交通に関する統計/交通事故死者数について.2026 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?stat_infid=000040395481