「救急外来ドリル」掲載・2026年5月27日公開
皆さん,このような経験はありませんか? 40歳女性が頭痛を主訴に来院しました.彼女は片頭痛の既往があり,今回も嘔気・嘔吐,拍動性の頭痛を認めました.そうなると誰もが片頭痛が原因であると考えがちです.もちろん,発症様式や痛みの程度が片頭痛と合致するかを確認することや,二次性頭痛の除外を行うことは,ERで働くものとして“あたりまえ”の行動ではありますが,簡単ではありません.
また,ERあるあるではありますが,同疾患の患者さんが連続してERを訪れることはよく経験します.流行時期のインフルエンザや胃腸炎はもちろんのこと,帯状疱疹やBPPV(benign paroxysmal positional vertigo:良性発作性頭位めまい症),尿路結石などの患者さんが連続して来院することもあります.もし本症例の前に,頭痛を主訴に来院した別の患者さんで片頭痛と診断した症例があったとしたらどうでしょうか.さらに片頭痛と診断しがちになります.
前者の認知バイアスがanchoring bias(アンカーリングバイアス)です.これはおそらく最も頻度の高い認知バイアスです.アンカー,すなわち碇ですから,意味としては,「この患者の原因は◯◯だろう」とそこで碇を下ろしてしまうと,そこから軌道修正するのは難しいということです.自身でこれだろうと決めてしまうとなかなかそこから抜け出せません.たとえ検査の結果などほかの部分に合致しない点があっても,です.忙しい環境下では特に陥りがちなバイアスであり,私は最後に確定診断する前に今一度“本当にこれで正しいのか?” “ほかに原因はないのか?”と自問自答するようにしています.
後者の認知バイアスがavailability bias(アベイラビリティーバイアス)です.要は,思いつきやすい,または最近経験した疾患などによって陥りやすいバイアスです.「頻度が高いからまたあれだろう(片頭痛の既往のある患者の頭痛だから,片頭痛だろう)」,「この前もそうだったし,また同じ原因だろう(さっきの患者も片頭痛だったし,今回もそうだろう)」ってなやつです.「最近,◯◯カンファレンスや勉強会などで経験したあれだ(片頭痛患者の1/3は両側性の頭痛って聞いたし…)」というのも含めてよいでしょう.疫学はもちろん大切ですが,患者ごとにアセスメントすることを怠ってはいけません.
本症例の患者さんは,普段の片頭痛とは痛みの性状が異なり,見た目の印象もsickであったため頭部CTを施行し,くも膜下出血と診断しました.言われれば,「まぁそうだろうなぁ」となるとは思いますが,現場ではこの思考過程を邪魔するさまざまな要因があるのです.皆さんご注意を!