第17回「腎臓外来で勝手に索引!」誌面掲載全文|Dr.ヤンデルの 勝手に索引作ります!

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腎臓外来で勝手に索引!

定価4,180円(本体3,800円+税10%) A5 256頁 中外医学社

Dr.長澤の腎臓内科外来実況中継

我々はエビデンス・ベースト・メディスンの申し子であるが,ベース(基礎)にエビデンスを敷き詰めるのは前提として,その上にナラティブの伽藍を立てなければメディスン(医療)という巨大建築は完成しない.現場で働く医師たちは,堅牢な基礎の上にそれぞれ固有の柱を立て,壁や屋根,窓をデザインし,門戸を開放して医業を為している.その設計理念を,先輩の口から直接聞くことには大きな意味があるだろう.やれ遠隔ICUだ,オンライン学会だ,医療メタバースだとかまびすしい昨今にあっても,やっぱり「現場の語り」って強いと思うのよ.達人の口伝から得られる情報の密度は濃い.どれだけ研修コースがプログラム化され均霑化されても,優れた指導医に付けるかどうかが研修医のその後を左右することはある.オーベン制度には替えの効かない魅力があるのだ.

では,良い指導医といかにして出会うか?

指導医マッチングアプリがあったら便利だな,などと妄想を膨らませつつ,自分の冷静な部分が,この狭い世の中で完璧にマッチする指導医を探し当てるのは大変なことだぞと冷たくささやく.理想のボスと巡り会えるかどうかは運まかせだ.ならば自然と,医学書によって指導医成分の一部を補完するとよいのではないかという発想になる.医学書は,リアルの指導医からは摂取しきれないある種の「栄養」を補うサプリメントなのである.

何を当たり前のことを面倒くさく語っているのか……といぶかしむ人もいるだろうが,私の経験上,一定数の若い医者はここで,「えっ本は本でしょ,指導医は指導医ジャン」とびっくりするのである.びっくりした人に向けて話を続けたい.

本は本,指導医は指導医,とばっさり割り切ってしまうあなたは,おそらく,医学書はもっぱら基礎のエビデンスの部分を明らかにするものであって,エビデンスの上にそびえ立つ主治医のナラティブについては守備範囲外だと思い込んでいるのではないか? たしかに,医学書を買う際,「質の高いエビデンスが豊富で使える」とか「最新の文献が網羅されていてすばらしい」などのレビューを目にすることはある.しかし,医学書がお堅いマニュアルやガイドラインばかりだと思っているならば,それはちょっと狭量である.

たとえばかつてこの連載で読んできた『小児科医宮本先生,ちょっと教えてください!』1)や,『ストーリーで身につく外科センス』2)のように,著者達の個性溢れるカテドラルを堪能できる医学書があることを見逃してはならない.「一級ナラティブ建築士」たちに紙面を通じて師事できることこそ,医書読みの醍醐味ではないか.

というわけで,今回紹介する『Dr.長澤の腎臓内科外来実況中継』も,大聖堂のような緻密な臨床知を味わえる名著である.試しに読んでみると良い,私は楽しく読んだぞ.さあ,今回の「勝手に索引」を見ていただこう.本稿では,索引の一部を抜き出しながら解説する.Webでは索引の完全版を公開.QRコードからぜひアクセスしてみてほしい.

市原のオリジナル索引①

読み 項目 サブ項目 ページ
とうせき 透析 「透析」ではなく「腎代替療法(renal replacement therapy:RRT)」という呼び名 133
「もう透析しかない」と言われ絶望に打ちひしがれながら来院したり(まだまだ全然大丈夫なことがあります) 133
とうにょ 糖尿病 糖尿病治療中でHbA1cが非常によい人(6〜6.5%くらい)は低血糖を起こしている可能性がかなり高いという認識が重要 42
糖尿病も認知症を増やします 51
とうにょ 糖尿病性腎症 糖尿病性腎症は腎機能があまり変わらずに尿蛋白が増えて,その後に腎機能があっという間に落ちます 126
糖尿病性腎症であっても病歴からはたった95%しか確定診断ができていない 239

最初に強調しておくと,この本は,common diseaseに対するコメントが美しい.血液生化学的な内科診療を語らせれば腎臓内科医の視点はピカイチであるし,たとえば上記のように,糖尿病の患者の「さじ加減に直結する診かた」などにも唸らされる.なるほどそんなピットフォールを意識して診療するのか…….細かい表現から漂う手練れ感.

腎臓内科医が書いた本だからと言って,「腎臓内科的スコアリングシステム」や,「腎臓関連処方」ばかりが記載されていたら,さすがに研修医の食指は動かないだろう.でも本書には,どんな科に勤める医師にとっても使いやすい情報が満載だ.調味料に例えるならば麵つゆみたいな本.汎用性が高く,何にかけても味がまとまる.具体的な例をどんどん見て行こう.

市原のオリジナル索引②

読み 項目 サブ項目 ページ
けつあつ 血圧 血圧と心血管イベントの関連 33
血圧の影響で認知症も増加します 34
血圧が低いことに勝ることはない 137
「血圧の薬を3つ飲んでも140/90 mmHg未満にならないときは専門の先生にみてもらいましょうね」と2剤目を出すときに伝えておくのがコツです 139
3剤目を出されたときに患者さんが観念する 139
3剤までで140/90 mmHgを切るように 149
125/75 mmHg以下を目指すのは修羅の国への第一歩 149
血圧の話がいつの間にか血流の話になっている 150
収縮期血圧が110 mmHg以下のときは,降圧薬・利尿薬をスキップする,という約束を作っておく 198

「この先,腎臓内科に紹介する可能性がある,高血圧でフォロー中の患者」にどう説明するか,という話である.最初に患者を診た医師が,あらかじめ患者にこのように伝えておけば,後で血圧コントロールが悪くなったときに腎臓内科への紹介受診がスムーズになるだろう.こういう外来技術をリアルの指導医から教わろうと思ったら,外来にずっとくっついて見ているしかないわけで,相性にも運にも左右されるから,そう簡単には行かない.医書サプリの面目躍如と言ったところだ.

市原のオリジナル索引③

読み 項目 サブ項目 ページ
むりにに 無理に尿酸だけを下げるという診療はお勧めできない 66
めとほる メトホルミンの注意点 69
ものすご ものすごい危機感 14
やきそば 焼きそばは汁を残すことができない 96
やくると ヤクルトに血液が混ざっているような誤解が生じないように気をつけていただければ使用して構いません 219
ゆしゅつ 輸出細動脈を収縮:アンジオテンシンⅡによる 55
ゆにゅう 輸入細動脈を拡張:プロスタグランジンによる 55
よくなら よくならないときはもう一度来てくださいね 130

減塩が必要な患者に食べものの説明をする際,焼きそばや煮物を避けるようにアドバイスするといいというのを,私は知らなかった.焼きそばが塩分調整にあまりよくない理由は,「汁を残せない(微調整ができない)から」なんだってさ(知ってました?).また,煮物より焼き魚,焼き魚より刺身のほうが,表面の味付けを薄くできるから減塩には向いているのだという.そして味付けするなら麵つゆ……じゃなくて,「アレ」がいいらしい.元々は京都の料亭で開発された調味料だ.へえー,なるほどなあ.これ以上のネタバレは興を削ぐので,詳しくは本書を読むといい.

生活指導に関する本書の言及は非常に多彩,かつ明快である.読んでいて飽きない.一方で,こんな話も出てくるから思わず身が引き締まる.

市原のオリジナル索引④

読み 項目 サブ項目 ページ
げんざい 現在の腎機能がどのくらいか 10
こうぎょ 抗凝固薬による腎障害「抗凝固関連腎症」 57
こうきん 抗菌薬に反応しない肺炎で採血フォローしたらCrが上がっていて血尿蛋白尿を伴っていた 114
こうくう 口腔内の機能低下はオーラルフレイルとも言われています 117
こうれい 高齢者の場合は認知機能との兼ね合いで血糖コントロールする 45

ハイライトした部分は,「アタマに入っていないと見逃す病気」というサブタイトルのついた第24項での一節である.「抗菌薬に反応しない肺炎で採血フォローしたらCrが上がっていて……」さあ,これ,どういうタイプの病気かわかる? 本文にはわざわざ,「これらの病気を一発で診断することはできません」とある.複数のクリニックを経て採血された段階でようやく見つかる,とも書いてある.プレゼンテーション的には「こじらせた風邪」,しかし実際には…….

このような疾病を私は「物語感が強い」と表現する.患者も医者も翻弄されがちなある種の病気を理解しようと思うとき,時間軸を考慮した「語り」がうまい文章に触れると,学習効率が上がる.私見だけど.

市原のオリジナル索引⑤

読み 項目 サブ項目 ページ
じんきの 腎機能 腎機能で調整の必要な薬を避ける 43
腎機能低下の速度が速い人は歯の本数が少ない 117
「腎機能障害は治らないんだからCrが5を超えてからの紹介で十分」と思っているような,知識をアップデートしていない人を減らす 213
「普通の腎機能の人だったらやるけどなぁ」と言ってためらわれる腎機能低下時の不安定狭心症 229
じんきの 腎機能で調整不要なのか,CCrで投与量を調整するのか? eGFRで投与量を調整するのか? については私も毎回添付文書を確認しています 59
じんこう 腎硬化症はそれほど尿蛋白が出ずにじわじわ腎機能が落ちた後に尿蛋白が増加します 126

「腎機能」周囲の項目はどれも「本丸」という感じがビンビン伝わってくる.腎機能による薬剤の調整に関するニュアンス,腎機能異常を合併する患者の手術についてのコメント,腎硬化症の臨床病像の出方,そして極めつけは,

「『腎機能障害は治らないんだからCrが5を超えてからの紹介で十分』とおもっているような,知識をアップデートしていない人を減らす」

これは殺し文句だ.

さらに,ややマニアックな話になるけれど(いつもか?),私は次のような記載がある本書を「偏愛」する.

市原のオリジナル索引⑥

読み 項目 サブ項目 ページ
じんせい 腎性貧血 「腎性貧血だ!」と断定するのはなかなか難しい 202
CKDが存在して,Hbが低い場合には「腎性貧血」としてエンピリカルに治療を開始する 203
じんぞう 腎臓内科 腎臓専門医1人あたり2,600人 8
RAA系に関しては,腎臓内科の意見よりも循環器内科の意見を優先してください 198
腎臓内科への早期紹介 213
じんぞう 腎臓病=安静は時代遅れ 98

「RAA系に関しては,腎臓内科の意見よりも循環器内科の意見を優先してください」. これは「境界部分を扱う思考」である,ベン図で言うと,重なっている領域の話だ.専門性の辺縁.ここに言及している本は例外なく強い.オーラが違うというか.

我々医師は科ごとに分類されている.疾病も細かく分類されているから当然だ.しかし,患者の病態とはときにシークエンシャルで,クリアカットにどこかの棚に放り込むことができないこともある(國松淳和先生はここを「ニッチ」と呼んでいた).ともすれば「臨床科どうしの押し付け合い」になってしまいがちで,あるいは逆に,自分の専門知識だけでなんとかしようとしていつの間にか領分を超えてしまっていることもある.

臨床における重力場のスキマのような場所では,さまざまな外力が複雑に作用していて,安定する点を見定めるのが難しい.ときに自分が前に出て,あるいは逆に後ろに下がって,という微調整をこなせる医師は間違いなく一流だ.「ここは循環器内科医の意見で通したほうが,臨床がうまく回りますよ」というアドバイスを,本に書こうと考え付く発想が尊い.臨床の流れをよくわかっているからこそ書ける内容だ.二流の著者ほど「自分がやれることだけで紙面を埋めようとする」.ウッ,額に屈曲した投擲武器がブッスリ刺さった感触がある.

◆ ◆ ◆

最後に一つ.マンガ『ONE PIECE』に出てくる喫煙するキャラクタというと,あなたは誰を思い浮かべるだろうか.コック? モクモクの実? まあそのあたりが普通の反応だと思うのだけれど(あるいは全く読んでいない人も多いのだろうな),長澤先生は文中で猛烈にリストアップしているので笑ってしまった.こういう列挙能力は,腎臓内科医っていうか,「超有能な総合診療医」のペルソナだよな.普通そこで,マザー・カルメルはなかなか出てこないよ.

文 献

  1. 「小児科医宮本先生、ちょっと教えてください!」(宮本雄策/編著,大橋博樹/編集協力),羊土社,2018
  2. 「ストーリーで身につく外科センス」(寺尾保信,去川俊二/編集),克誠堂出版,2019

著者プロフィール

市原 真(Shin Ichihara)
JA北海道厚生連 札幌厚生病院病理診断科 主任部長
twitter:
@Dr_yandel
略  歴:
2003年 北海道大学医学部卒業,2007年3月 北海道大学大学院医学研究科 分子細胞病理学博士課程修了・医学博士
所属学会:
日本病理学会(病理専門医,病理専門医研修指導医,学術評議員・社会への情報発信委員会委員),日本臨床細胞学会(細胞診専門医),日本臨床検査医学会(臨床検査管理医),日本超音波医学会(キャリア支援・ダイバーシティ推進委員会WG),日本デジタルパソロジー研究会(広報委員長)
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長澤 将/著

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