[巻頭インタビュー]あの先生に会いたい!vol.1
患者さんにも家族にも文献にも“愛”が大事なんです!

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レジデントノートインタビューコーナー『あの先生に会いたい!』では,さまざまなフィールドでご活躍中の先生に,医師として歩んでこられた道のりや,現在,そして将来のこと,さらに私生活とのバランスの取り方などについて語っていただきます.また番外編では,本誌に収まりきらなかった内容をホームページ限定で紹介していきます.

番外編2 -研修医の指導は、育児と通じるところがあるんです-

平林先生(以下敬称略):初期研修医の指導は私たち後期研修医もときどきするのですが,やはり忙しい現場で,どうしてもうまくわかりやすく教えてあげるという余裕がないということもあって,できないときがあります.それが後でもう少し丁寧に教えてあげればよかったなとか思うときがあるのですが,どういう気持ちで初期研修医に接してあげるのが良いか先生が日頃気をつけていることがありますか?

林先生(以下敬称略):いや,僕はまだ未熟ですよ.僕がこういうときに怒ってはいけないと思うときなんかは,やはり「寺澤先生だったらどうするかな」と考えたりして,態度を作ったりしますね.「ドクター誰だったら」とか「箕輪先生だったらどうやって教えるかな」とか.「こんなことも知らないのか!」と言わずに,にこにこと笑って「それはいい考えだね」と笑って教えます.

 それに,忍耐も必要なのでしょうね.心の持ち方というのは,面白いのですが,実は育児と通じるところがありまして,子どもというのは2歳や3歳でも大人の顔色を見て動くんですね.子どものくせによくわかっている.ママのときは言うこと聴くのにパパのときは「こいつなめてるな」と.犬と一緒ですよ.家庭のなかで序列があって,主人はママで,僕は下僕.それと,子どももプライドがありますので人格を否定してはいけない.「おまえという奴は」とか,今回だけの行為を言えばいいのに,「おまえという奴は」って人格否定ですよね,「いつも」とか「この前もこうだった」とか.それで傷つくのですね. I(アイ)メッセージで,「パパはこう思うよ」「パパならこうするね」と言うと受け入れられやすかったりします.「ハルちゃん(林先生のお子様)のこの行為はパパ気に入らないな」と,「でも,あなたを否定しているわけじゃないよ」というメッセージを出す.それから,怒るときは真剣に怒って目線を合わす.さらに,あなたのために言っているんだ,とか良い関係を作ってから言わないとやっぱりまずかったりもします.タイミングも絶対に逃さない.あまり遅れすぎても駄目.それに加えて後からフォローする,とか.

 こういうことは,そのまま研修医指導と一緒だと思うようになりましたね.だから心の持ち方というのはある意味愛情をもってないといけないですね.なんとか役に立ってもらって,自分が楽させてもらおうと思えば,その1人の研修医が伸びるということは,その分自分たちの負担が減るわけですから.今の先行投資はやっぱりしとかなくてはいけないだろうと考えて,愛情をもたなくてはならないですね.なおかつ彼らの人格を否定しないで受け入れやすい形にしなくてはならないだろうなと.褒め言葉ばかり並べても気持ち悪いだけですから,びしっと言うところはやはり真剣にちゃんと言わなくてはならない.それでも,逃げ道を必ず1カ所は作っておかないといけません.逃げ道がない怒り方は駄目です.こういうところに気をつけるようにしています.

 でも,僕ら臨床家は何が一番大事かと言うと,教育が大事だと言う以前に患者さんが大事ですからね.患者さんに凄く不利益があるようなことがあったらやはり許せないところはありますよね.だから教育と称して全部研修医が先に診て,その後じゃないと俺は診ないぞ,といった態度はしてはいけません.うちのスタッフはみんな,患者さんがいたら,どんどん診ていってしまいますよね.患者さんのサービスはやはり大事で,患者さんに不利益が生じてはいけないということでどんどん診ていきます.初期研修1年目は最低1時間に1人診なさい.2年目は1時間で2人診なさい.スタッフは1時間に6人診ましょう.後期研修医はその間を行ったり来たりしながら診ましょう,と僕はいつも言っています.救急はスピードも関係ありますので.ほっとくと8時間勤務なのに3人しか患者さんを診なかったという1年目の研修医がいたりしますので,もちろん怖いということがあるのでしょうし,やる気や,慣れていないということもあると思いますが.コンピュータの前で検査結果だけクリックずっと長いことしている研修医がいて,場所を空けてもらうように看護師さんが頼んでもどかないので,僕が行ってどかして次の患者さんを診せると,最初の患者さんを忘れてしまったりとか,1度に2つ3つできないというのはしかたないことかもしれません.そのあたりを見渡さないといけないのは僕らの仕事だったり,後期研修医の仕事だったりするわけですよね.

平林:はい.そうですね.毎年たくさん研修医が来ても変わらずに指導され続けているのは,本当にエネルギーがいりますし,凄いと思っています.

林:指導のしかたは変わっていますよ.やはり,自分のエネルギーが減ってきたこともあるのでしょうか.ぶちっとすぐに怒ったりすることはなくなってきましたし,アラレの缶で殴っていたのはハリセンになりましたし,ハリセンも今は持ち歩くのが邪魔くさくなって,持ち歩いていませんね.ハリセンはぜひ復活したいと思っているのですが.

Profile

林先生
林 寛之(Hiroyuki Hayashi)
福井県立病院救命救急センター
熱心でガッツのある研修医に囲まれて幸せな毎日です.あなた達のおかげで私も勉強できるんだなぁって.

平林先生
平林靖子(Yasuko Hirabayashi)
福井県立病院救命救急センター
林先生のなかには,患者さん・研修医・家族への愛情と情熱がぎっしりつまっていることがわかりました.私も1歩1歩がんばりたいです.

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