従来のカメラではあまり自撮りはされていなかったですが,今はスマートフォンを使った自撮りが日常的に行われています.自撮りは撮影中に周囲への注意がおろそかになるため,さまざまな事故が起きています.かつてポケモンGOでの交通事故のお話をしたことがありますが(2018年3月号),自撮りによる事故は深刻です.承認欲求を満たすためにSNSでの「映(ば)え」を狙って,かなり危険な場所で撮影することも原因と思われます.
2008年1月1日〜2021年7月27日の間にオンラインで確認できた自撮り関連事故死を抽出したところ,自撮りによって引き起こされた最も多い死因は「転落死」で,379件中216件を占めます.その他の主要な死因は,電車や車による「交通事故」,「溺死」,「銃器関連」,「感電死」,さらには「野生動物に襲われた」という事故も17件発生しています.男女を比較すると,高所からの転落および動物による死亡は女性に多く,交通事故による死亡は男性に多かったそうです.自撮り関連事故死の約4割が旅行者であり,死亡者の平均年齢は24.4歳と若い特徴があります1).
国別の分析では,インドが最も多く,次いでアメリカ合衆国,ロシアと続いており,その国の文化や治安,経済状況にはあまり関係なく,多くは転落による多発外傷か溺水であると報告されています2).最近,シドニー近郊のロイヤル国立公園での事故が急激に増えているそうです.岩の端に立って自撮りをしている際中に,海に落ちたり,波にさらわれる例もあり,オーストラリアの救急医の間では重大な公衆衛生上の問題と認識されています3).
ちなみに,最近,1日3枚以上の自撮り写真の投稿を脅迫的に行っている人は精神科的な治療が必要となるかもしれないと警告する論文が出ています4).確かに1日何度も自撮りをして,加工しまくって自分に酔っている人がいますが,それはそれで私には幸せそうに見えます.