最近よく聞く「スマドリ(=スマートドリンキング)」とは,お酒を飲む人も飲まない人も気兼ねなく自分の好きなドリンクを楽しめる「飲み方の多様性」のことで,かつてお酒の宴席でみられたような強制的な飲酒は,今ではハラスメントとされます.私はお酒を飲むと顔が赤くなる「アジアンフラッシュ」とよばれる体質で,酔いやすいので当時から宴席はあまり好きではありませんでした.私のようなアジアンフラッシュ体質の人は,悪酔いの原因になるアセトアルデヒドを分解する2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)遺伝子の一塩基多型であるrs671変異をもつといわれており,日本人の約半分,総じて東アジア人の約36%がアジアンフラッシュ体質であるそうです.
お酒を飲むと眠くなることもありますが,約3万人の日本人にアンケートで調査したところ,アジアンフラッシュの人は,500 mLのビールを飲むと6分間睡眠時間が延びるそうです1).とはいえ,その睡眠の満足度は低い傾向があり,大阪府在住の20〜64歳の日本人約4千人にインターネット調査を実施したところ,アジアンフラッシュ体質の人は睡眠の満足度が低いことがわかりました2).これは,飲酒したことがない,あるいは過去に飲酒したことがある人でも同じ結果であり,ALDH2の遺伝子変異はアルコール摂取に関係なく睡眠の質を下げる可能性があります.また,アジアンフラッシュの人は食道癌の発生率が数十倍高いこともよく知られています3).
アジアンフラッシュの人はいいこともあり,ワクチン接種が一般的になる前のCOVID-19の感染において,アジアンフラッシュ体質の人は発症が遅く,そうでない人に比べて感染リスクが79%低かったそうです.また感染しても入院リスクが低く(約5分の1),重症化抑制にもなったと報告されています4).そのメカニズムはわかっていませんが,遺伝子変異が影響した可能性は否定できません.ちなみに,日本人はALDH2酵素の活性型が56%,低活性型が40%,不活性型(完全な下戸)が4%とされていて,日本列島の中心部ほど低活性型が多いそうです.地理的に東北の人や九州の人は酒が強いイメージがありますが,それはこのデータからもうなずけます.