アメリカに住んでいた頃,子どもたちはハロウィーンを大変楽しみにしていました.ハロウィーンは,ご存知のとおり10月31日に行われる夜のお祭りです.現在では仮装やコスプレイベントのように思われていますが,もともとは古代ケルト人の風習であり,収穫を祝う祭りの前夜祭だそうですが,そのときには霊界との境がなくなり,祖先の霊や妖精がこの世に現れると信じられていました.同時に来る悪霊を追い返すためにかぼちゃの「ジャック・オー・ランタン」を飾ったり,魔女やお化けに仮装する風習ができたそうです.子どもたちはお菓子を山ほどもらえるので,その後に虫歯が増えて歯医者が繁盛する,というのが毎年のあるあるです.
2016年までのカナダにおける交通事故の42年分のデータを調べると,ハロウィーンの日の歩行者の死亡リスクはなんと43%も増加し,特に子どもでその傾向が強く,4歳から8歳までの小児の死亡リスクは10倍に跳ね上がります.コスチュームのために視野が妨げられ,アルコールの影響もあって注意力が散漫になることが原因と推定されています1).イギリスでの分析でも,ハロウィーンの日の17時から18時の間は,交通事故で死亡したり重症を負うリスクが他の日と比べて34%も高いことが報告されています2).一方で,シカゴで2003年から2014年の約1億5千万の健康保険のデータを解析したところ,すべての年齢で平日や他の休日と比較してもハロウィーンの交通事故のリスクは変わらなかったとする報告もあります.しかし,この場合にも自傷や他害事案は特にティーンエージャーで増加することがわかりました3).
日本には先祖の霊を迎える「お盆」という風習がありますが,ハロウィーンとは似て非なるものです.海外のハロウィーンではお菓子をもらいに来た子どもが,不審者と思われて銃で撃たれる事件も起きており,ハロウィーンは救急医にとって要注意の日であることは間違いありません.
ちなみに,昆虫の変態に関与するホルモンであるエクジソンの合成に関わる遺伝子群には「ハロウィーン遺伝子」と呼ばれるものがあります.この遺伝子の突然変異体が正常な変態を行えず,形態が奇妙でお化けのようであったため,このような名前がつけられたそうです.