寒くなるとトイレが近くなりますが,この現象は「寒冷利尿」として古くから知られています.植物や昆虫は体液の水分を喪失し浸透圧を上昇させ,凝固点を下げることで身体が凍ってしまうことを防いでいるそうです.では哺乳類などの恒温動物ではどうなのでしょうか?
1997年に日本の南極地域観測隊の男性隊員5名を,20℃の室温とマイナス20℃の屋外の寒冷環境にそれぞれ30分おいて,尿中の電解質やカテコラミン,レニンなどの内分泌検査をしています.その結果,寒冷環境ではノルアドレナリンが著増し,末梢や皮膚の血管を収縮させることで体表から熱を奪われることを防ぎ,レニン活性が低下し腎血流が増加して,寒冷利尿が起きることを報告しました1).同様の結果は,20歳代前半の健康な男性10名で行われた研究でも証明されており,14℃の水に60分間浸ることでノルアドレナリンの血中濃度は5倍に,ドパミンは2.5倍に増加し,1.6倍の利尿がみられることがわかりました2).
また,抗利尿ホルモンであるバソプレシンに注目した研究もあり,ラットを寒冷(15℃)と常温(30℃)環境下に45分おいたところ,寒冷環境下ではバソプレシンの分泌が減少し,尿の浸透圧が下がることがわかりました3).さらに,ブラトルボロラットという先天性にバソプレシンを分泌できないラットにバソプレシンを外因性に与えた場合,寒冷刺激を加えても利尿はみられないことから,下垂体から分泌される内因性バソプレシンが減ることが寒冷利尿のメカニズムの1つであると示されました.
信州大学で行われた実験では,ラットを室温28℃から4℃の寒冷環境へ移動した場合,はじめは頻尿が誘発され,その後は徐々に頻尿が改善し,再び28℃の室温に戻すと正常な排尿サイクルに戻ることが確認されました.これは,皮膚(主に背中や下肢,下腹部など)に存在するセンサーが寒冷環境ストレスを感知し,排尿筋の過活動が誘発されるためだそうです4).このように寒い環境で頻尿になるのはさまざまな理由があります.
寒冷と飲酒はバソプレシンの分泌を抑制する代表的な刺激であり,寒いところでお酒を飲んで何回もトイレに行きたくなってしかたがなかったすすきのの夜を思い出しました.