こんなにも面白い医学の世界 からだのトリビア教えます

第137回 エアバッグ物語

エアバッグは今ではほとんどすべての車の標準装備になっていますが,実は小堀保三郎という日本人研究者が開発者の一人として知られています.しかし,当時は理解されず,日本の消防法にも抵触することから,小堀さんは実用化を目にすることなく1975年に亡くなっています.

トリビアイメージ

エアバッグが実用化されたのは1970年代のアメリカです.その当時はシートベルトをしないのが格好いい風潮があったようで,交通事故で車がクラッシュし急停車したときに慣性で座席に座っている人の体が前に飛ばされ,ハンドルやダッシュボードによる胸部打撲が多発したことから,ドライバーを守るための装置として開発されました.現在のエアバックは「SRSエアバッグ」と呼ばれており,Supplemental Restraint System(補助的拘束装置)という意味で,あくまでシートベルトをしていることを前提としています.エアバッグの導入で交通事故の死亡率は約20%程度減少したといわれていますが,今の形になるまでには膨大な研究と試行錯誤がありました.導入当初は,エアバッグが膨らむことによる外傷が報告されており,本来生命を救うはずのエアバッグが気胸や肋骨骨折,気管損傷を引き起こすこともありました1,2)

黎明期のエアバッグは,バッグを膨らませるのに圧縮空気が用いられていましたが,振動で誤作動したりバッグが膨らむのに時間がかかるなどの問題があったようです.現在のエアバッグは,圧縮空気を送り込むのではなく,火薬を使う爆発式が主流となっています.初期のエアバッグではアジ化ナトリウム系の火薬が使われていましたが,これは気管支炎や肺炎を引き起こす毒性3,4)が問題となり,2000年以降,日本のエアバッグでは使用禁止となっています.その後はガス発生剤として硝酸アンモニウムが使われたこともありましたが,日本のメーカーのエアバッグが暴発してリコールになったことを契機に改良され,現在では硝酸グアニジンからなる火薬が使われることが多いようです.エアバッグ自体も改良が進み,膨らんだ後にしぼんで衝撃を吸収できるように,後面に結構大きな穴があけられています.

われわれ救急医は交通事故で搬送されてくる患者さんを診療するとき,何気なくシートベルト装着,エアバッグ作動の有無を確認しますが,日本人によって開発されたエアバッグは改良に改良を重ねて今の形になっていることを知ると,感慨深い思いがします.

文献

  1. Morgenstern K, et al:Bilateral pneumothorax following air bag deployment. Chest, 114:624-626, 1998(PMID:9726756)
  2. Karapantzos I, et al:Tracheal rupture after air bag deployment. J Trauma, 64:1131-1132, 2008(PMID:17413527)
  3. Hambrook DW & Fink JN:Airbag asthma:a case report and review of the literature. Ann Allergy Asthma Immunol, 96:369-372, 2006(PMID:16498862)
  4. Kola VR, et al:Airbag ARDS:airbag fumes exposure leading to ARDS. BMJ Case Rep, 18:e264319, 2025(PMID:40081924)

著者

  • 中尾篤典(岡山大学医学部 救命救急・災害医学)
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