水は液体であり,それ自体ではそれほど殺傷能力はなさそうですが,速度と圧力が加わると局所的に大きなエネルギーをもちます.そのような高圧水流が人体を破壊する凶器となることがあり,それによって怪我をした患者さんが救急に運ばれてくることがあります.
産業用などで使われる洗浄用ジェット水流の圧力は,一般的に200〜300 MPa(大気圧の約2,000〜3,000倍)まで加圧され,速度はマッハ3に達することがあります.高圧水流による外傷は,空港や工場での高圧洗浄作業中に多く発生し,ホースがコントロールできなくなり高圧水流が自分に向かってきてしまい,動脈損傷や軟部組織損傷など重篤な外傷をきたした例が報告されています1,2).ほかにも,消防士の眼球損傷が報告されており,恐らく水が出てくる前にホースをのぞき込んでしまったのかもしれません3).これらの外傷の特徴は,見た目と重症度が一致しない点にあります.皮膚表面に大きな損傷がなくても,内部では広範囲な組織破壊が進行していることがあります.この特徴は高圧注入外傷全般に共通しており,四肢の高圧注入損傷でも同様に,見た目の軽症さに反して重篤な組織傷害が生じることが知られています4).
最近,比較的注目されているのがジェットスキーでの外傷です.ジェットスキーは,通常2〜3人乗りで,運転者が後ろに1〜2人を乗せて走行しますが,スピードが出てバランスを失うと,股を開いたまま後方に滑り落ちるような恰好になります.夏にジェットスキーから落ちた患者さんのなかには,外見上は軽微な外傷にもかかわらず,腹痛や出血を訴えて搬送される人がおり,精査すると直腸や膣の裂傷,さらには腹腔内損傷が明らかになることがあります.会陰部は,ちょうど骨盤輪の部分で骨がなく,外からの圧力に弱い場所ですから,高圧・高速の水流が会陰部に集中すると容易に体内に水流が侵入し,内臓に損傷を与え,腹腔内出血による死亡例も報告されています5).
ちなみに,ジェットスキーに乗るときには,比較的頑丈なウエットスーツの着用が推奨されています.しかし,多くの場合,水着で遊ぶことが多く,報告されている事故のほとんどは水着のみの着用であったようです.マリンスポーツをするときには,十分に事故の予防も考えたいものです.