座談会online-独立奮闘記 in Boston

座談会─独立奮闘記 in Boston

(実験医学2011年4月号5月号特別記事)

 実験医学2011年5月号掲載の「座談会・後編」では,米国から見た大学院教育の違い,日本人の海外留学のあり方と,キャリアプランについて語っていただきました.以下ダイジェストをご覧ください.

【座談会・後編】米国から見る留学問題とキャリア形成

米国留学のタイミング―大学院教育から考える

浦野 では,米国留学について議論していきたいと思います.米国に来るタイミングについては,皆さんどのようにお考えですか? 僕は正直“留学したいとき”が一番だと思いますが.

金木 僕は日本で医師免許と博士号をとってからポスドクとして留学しました.チャンスがあり,かつ留学する気があるのであれば,その時が好機だと思って留学したらよいと思います.英語に関しては,実際には,米国に来て苦労するしかないですよね.準備のために留学を先延ばしにするのはナンセンスだと思います.言葉や文化の違いを含めて海外で,日本ではあまり経験しない種類の苦労をすることも留学の1つの意義だと言ってもよいのではないかと思っています.苦労して,自分が痛い目にあってはじめてわかるということもあると思うんです.

浦野 日本人はよく勉強するので高校までは世界的に見ても優秀だと思うのですが,大学・大学院は米国の方が勝るかもしれません.ですから,確かに学部のときくらいに留学するのがいいかもしれないですね.

 特に大学院での教育には相当な違いがあるので,博士をとってから米国に来るとだいぶ差がついていると思います.

荒井 僕は,日本で博士号を取って製薬企業の研究員を経て米国にきました.やはり日本の大学院教育にくらべ,米国の方が全体的にシステマチックになっていますよね.日本の場合は“システム”がないので,良いラボに入れば教授なり,スタッフなり,先輩なりからきちんとトレーニングを受ける機会があるのですが,不幸にしてそうでないラボに入ってしまうと5年間でほとんど育つチャンスがないということもあります.

オススメ
研究者の英語術

浦野 日本の場合は,特に医学部は博士課程に入りさえすれば博士号はだいたいとれるのではないでしょうか? 一方で米国の場合はいたるところにハードルがあるんですよね.

 博士課程の最初の1年間は午前中にレベルの高い授業をどんどんやって,試験を通らないと進級できません.夏休みの間もある程度,writingのコースなどがあります.午後は2,3カ月ずつ4つか5つのラボを回ります.後で気にいった研究室に入るためには,いろいろなテクニックを学ぶのと同時に,一生懸命メンバーと仲良くしたり,実験技術を素早く学べるとアピールしたり,教授への“売り込み”をする必要があります.自分の行くラボがなくなっては困るので,売り込みは大事です.

 大学によるとは思いますが,2年生になると決まったラボで1年間過ごします.その終わりにqualifying examinationがあって,プログラムによって異なりますが自分なりに10~15ページのプロポーザルを書いて,5人くらいの教授による審査を通らないと次に進めません.そのためにはwritingで他の人に“伝える”ことを学ばなければ.(・・・中略・・・)

留学するべき? しないべき?―若手研究者へのメッセージ

浦野 いま金木先生からもありましたが,留学をためらう理由として「日本に帰れないかもしれない不安」をよく耳にしますね.

羽田 私からすれば,若い人がそういった不安を抱えて日本を出られないというのは考えられないです.研究は世界が相手なので,欧米に出てみるのは絶対いいことですよね.

 私自身は女性として,日本で満足のできる職をみつけるのはほとんど不可能だという覚悟ができていたので,日本には未練がありませんでした.今でもとにかく最高の環境で研究したいという思いが頭にあるので,不安は感じることはありません.研究だけでなく,限られた選択肢のなかで自分の今の人生プランにどこが最適か,妥協しつつも,最善の道を選んできました.

小林 どこでもいいというわけではないですが,やはり多くの場合は一度海外に出た方が世界に通用するようになるのではないでしょうか.コミュニケーション能力を身につけるという点でも絶対に留学経験がある方が有利なので,もし将来アカデミアに残ると決めている人であれば,海外に出るという選択肢しかないのではないかと僕は思いますね.

オススメ
科研費獲得の方法とコツ

荒井 僕も日本の科学技術の発展を考えれば,できるだけ多くの日本人研究者に米国に来てもらいたいなと思います.ですが,M.D.ではなくPh.D.の研究者に限って言えば,気軽に留学をおすすめはできません.

 最近は米国に限らずポスドクの人数が余っているうえ,研究費も削減されています.米国に来たものの,その後アカデミックポジションも得られず,企業にも就職できず,かなり悲惨な状態に陥っているポスドクを何人も間近に見ています.もちろん,日本人だけが困っているというわけではありません.そういった状況を考えると,僕は「悩むなら来ない方がいい」とアドバイスするかもしれません.

浦野 荒井先生の場合は会社を辞めての留学ですから,相当の決心ですよね.

荒井 かなり不安はありました.日本の大企業は今も終身雇用が守られることが多いですから,とどまっていれば一生安泰な暮らしだったと思います.そのため,その生活を捨てていいのかどうか,すごく葛藤がありました.ですが,結局は自分の目標に挑戦することに決めて,失敗したら失敗した時に考えようと思って米国に来たんです.(・・・中略・・・)

夢とサバイバルのキャリアプラン

浦野 最後に,現在米国で研究をしていますが,皆さんご自身のキャリアプランについて議論したいと思います.(・・・中略・・・)

羽田 いつか違うところでやってみたいな,とはTufts大学で独立してから10年間思い続けていたのですが,最初の7,8年はラボを立ち上げて経営していくだけで大変でした.ここ1~2年で少しゆとりができて,実現できたんです.UCSFのような大きいところは有名な研究者も多く,私なんか全然目立たないだろうけど,おもしろいことをやっている人々に囲まれて,今の仕事を新しい次元にもっていけたらなと思っています.

小林 流動性があるという点は米国のいいところですよね.日本だったらA大学を出たらA大学の教授がゴール,のように決まってしまいがちですが.

オススメ
困った状況も切り抜ける医師・科学者の英会話

 僕自身は,今いるHarvard大学の免疫学のコミュニティーでこれからもしばらく頑張っていきます.昔いろいろな大学からファカルティーのオファーをもらいだしたときに知り合いの教授に 「Big Fish in Small PondになるかSmall Fish in Big Pondになるか考えなきゃね」 と言われ,もちろん後者のつもりでHarvard大学に来ました.「“鮫(Shark)” がいるぞ」 と脅かされたんですけど,実際はそんなことはなく,割とみんな助け合って非常にいいんです.

 将来日本に帰るかどうかは難しい問題で,帰りたくないわけではないですし,米国にいる不安もないわけではないのですが,日本の大学制度には,フラストレーションを覚えるだろうなとは思います.

金木 僕は今までもちゃんとした計画を立てずにやってきたところがあるし,今でもそうなんですけど.正直に言うと,目の前のサバイバルゲームを乗り切るというのが第一です.最低限子どもが大学に入るまでアメリカで研究をするとなると,日本に帰ってもポジションがあるのかどうか問題です.たとえあったとしても,すぐに定年になってしまうんじゃないか.そういうことも考えて,その場その時で現実的にベストと思った選択をして,まずサバイバルできれば自分としては合格点だろうと考えています.(・・・後略・・・)

実験医学2011年5月号

続きは実験医学5月号誌面にてご覧ください

【座談会・後編】米国から見る 留学問題とキャリア形成

  • 米国留学のタイミング―大学院教育から考える
  • 翳る日本人留学生のプレゼンス
  • 留学するべき? しないべき?―若手研究者へのメッセージ
  • 夢とサバイバルのキャリアプラン

座談会の前編は4月号に掲載されています.渡米の決意から,英語やグラント獲得,ラボ運営のスキルについてご討論いただいています.上記タブからダイジェストをご覧ください.

【座談会・前編】 米国でのラボ運営とサバイバルのスキル

  • 米国でPIになるまで―千里の道も留学から
  • ラボ運営:課題は人材か,グラントか
  • 米国で認められるためにーディスカッションの重要性
  • 英語の壁:問題はスピーキングだけじゃない?!

↓WashUでのポスドク座談会(2010年3月号,4月号掲載)はこちらをご覧ください↓

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