バイオメディカルの展望を訊く―キーパーソンインタビュー

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難治性疾患治療を目指して

~医療ニーズと学術研究の接点 (2/5ページ)

【対談】中村良和,加藤茂明

特別対談「難治性疾患治療を目指して~医療ニーズと学術研究の接点」(実験医学2009年1月号より

患者が近くにいるという感覚~研究のモチベーション

中村 加藤先生がおっしゃった「若手の研究者はゴールがよく見えない」というのは,ある意味,企業でも同じことが言えます.われわれのオフィスには,患者さんが描いた絵を飾っていますが,常に患者さんが近くにいるということを,社員が意識するようにするためです.

加藤 教育の立場でいうと,そういうことをうまく伝えられていないと思います.世の中にはいっぱいやらなきゃいけなくて,かつ面白いことがたくさんあるのに,若い人に十分伝わっていないんです.特にこの難治性疾患は,自分の近しい人がなったりしないと,十分に意識されないかもしれません.

中村 おっしゃるとおりですね.

編集部 目的意識を持たせたり,モチベーションを高めるためにどのようなことをされていますか?

対談風景 中村良和先生(左),加藤茂明先生(右)

中村 われわれの会社では,米国で創立以来,「patient centricity(患者さんのために)」を価値観の1つとして,掲げています.その意味で,患者会の活動を支援したり,ボランティア活動を行ったりしています.患者さんに来社していただき話をしたりとか,われわれも患者会に参加したり,患者さんと触れ合う機会をもつようにしています.

加藤 素晴らしいですね.私の研究室では,研究会やジャーナルクラブで生命現象や疾患についても情報を与えて,学生が研究をしながらその関係性にハッと気づけるような環境作りをしています.

最近,生命現象に関係ない発見にエキサイティングしてしまう傾向がすごく強いんじゃないかと思っています.特に分子生物学がこれだけ進むと,学生さんのとらえ方はDNA万能主義で,いつの間にか生物現象と乖離してきているんですね.難治性疾患のなかには,恐らくわれわれが想像もできなかったようなしくみや,その因子があって,生物学を見直すうえで,非常に必要な知識だと思います.

中村 研究の方向性やプロセスは,これまでは経験則であったり,ある研究者の偶然の発見をもとに実際どんなことに効くかを調べる,という流れだったと思います.でも,今後はそれではニーズにマッチしません.要するに,難病の発症メカニズムからはじまって,そのメカニズムから新たなターゲットを見つける,という流れでないと,難病に対する限られた投資に対して応えることができないと思います.研究の流れや考え方を,変えていく必要があるかもしれません.

また,特に今一番問題なのは,基礎研究から,臨床や産業界を結ぶ「バトンゾーン」がうまくいっていないことだと思います.先日,BioJapan 2008に参加しましたが,バイオベンチャーや大学の先生がみんな集まり,活気がありました.そこにはいい仕事がいっぱいあるんですけれど,なかなかそれらを事業化する投資が得られません.そのギャップが非常に難しくて,そこを整備していくことが課題だと思います.

加藤 私は行政が指導していくべきだと思っています.例えば,ポスドクが1万6千人いて,「次のポストがない」と言っていますが,一過性のポジションをいくら大学につくっても,毎年大学の予算が減らされているなか,安定的にポジションを増やせるわけがありません.ニーズから考えたら,例えばトランスレーショナルリサーチのようなところに公的資金を入れて人材を積極的に活用すべきだと思うんです.だから,米国の場合には,トランスレーショナルリサーチを行う研究者層が日本に比べて圧倒的に多いんです.

中村 そうですね.

加藤 大学でも,例えばバイオテクノロジーに歴史のあるスタンフォード大学にはそういう部門があります.米国では,医学部のなかにもトランスレーショナルリサーチを行う研究部門が結構ありますよね.

中村 国は2009年度の予算概要ということで,難病治療に関しての投資を増やしています.『社会保障の機能強化のための緊急対策~5つの安心プラン~』の中の1つになっていますが,これがどのように効果的に配分されるかは,明確ではありません.

編集部 そのような難しい状況のなかで,なぜ難治疾患を1つの大きな柱として研究開発を続けているのですか?

中村 今,1つの疾患と思われているものでも,これから研究が進むにつれてどんどん細切れになっていきます.オンコロジーが特にそうですけれど,今まで,例えば1つの「癌」でしかなかったものが,種類が分かれてどんどん細分化されてきています.そうすると当然一つひとつのターゲットが決まってくるはずです.それでは,これからどういう疾患をターゲットにするのかを考えますと,まず出てくるのが難治性疾患です.私は,難治性疾患をターゲットにするのは,これからのこの業界の流れだと思います.今あらゆる会社が,「アンメットメディカルニーズ(医療ニーズが満たされていない領域)」と言っていますが,そういう流れになってくると思っています.

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