バイオメディカルの展望を訊く―キーパーソンインタビュー

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難治性疾患治療を目指して

~医療ニーズと学術研究の接点 (4/5ページ)

【対談】中村良和,加藤茂明

特別対談「難治性疾患治療を目指して~医療ニーズと学術研究の接点」(実験医学2009年1月号より

産と学の連携だけではヘルスケア産業は育たない

編集部 難治性疾患を克服するために,産学連携についてはどのような対策が必要でしょうか?

中村 難しいですね.今,いくつかの大学は産学連携をしようと,様々なセンターを造っています.しかし,そこからすぐ結果が出るわけではありません.最近は企業でさえオリジナルの新薬が出なくなってきています.研究者の方は自分が何かおもしろい発見をしたら,ベンチャーをはじめるか,どこかに売り込む,という形になっています.しかし,本当に連携してうまくいくかというと,産と学だけでは難しいと思います.そこは,やはり国としての戦略がないとうまく機能しない気がします.日本は資源も土地も乏しい国ですので,ヘルスケアはうってつけの産業です.ですので産と学だけでなく,この分野に投資していくんだと官が明確な戦略を示していかないと,なかなか動かないと思います.

加藤 おっしゃるとおりだと思います.大学の方は,法人化して敷居が低くなっています.メガカンパニーは,寄付講座をつくってますけど,ああいう一過性なものでも,スタートできたことは大きいと思います.ただ,必ずしもうまくいってないのは,そこにいる研究者がトランスレーショナルリサーチに本気ではない場合がかなりあって,それが産学連携が進まない要因となっています.米国みたいにフランクなスタイルで,産と学が平等に連携できるといいと思います.

対談風景 中村良和先生

中村 ヨーロッパでは,企業の研究所と大学の研究所がしばしば一体になっていて,そこを自由に研究者が行き来しています.こういう環境は非常にいいと思います.そこで研究の情報交換ができて,さらにすぐ隣に病院が建っているとなると,そこで研究されたことがすぐ臨床に結び付く可能性があるわけです.

編集部 大学が法人化したことによって,大学と企業の関係は変わりましたか?

中村 知財について大学も非常にセンシティブになっています.しかし,特許についてはまだ十分に認識されていない場合があるように思います.しっかりした特許戦略を大学側が持つことにより,企業との関係はより強力なパートナーシップへと進化していくと思います.

加藤 東京大学では,産学連携をどう進めるかというプログラムを一生懸命に進めていますが,産学連携本部の担当者は,産業界からも多く採用しているようです.

編集部 ほかに制度上の問題はありますか?

中村 企業側からすると,基礎研究の後,いくつもの臨床試験を行い厚生労働省から承認を得るまでのプロセスは非常にお金がかかるわけです.日本で臨床試験に要するコストは米国,ヨーロッパの約2.2倍といわれています.そうすると,われわれのような外資系企業は,なぜ日本でこんなに費用をかけて試験を行わなくてはならないのかということになります.中国,韓国でやった方がいいとなると,今度日本の臨床開発の空洞化が生まれます.
日本に対して投資する価値がなくなると,基礎の先生方が一生懸命研究されても,誰も開発しないということになります.そうすると,優秀な頭脳が海外に流出することにもなりかねません.そこを何とかしないとなりません.特に難病ですと,患者数が少ないですから,日本で臨床試験を行うとなかなか投資が回収できません.日本の基礎の先生方が,日本の患者さんのために研究しても,米国で先に薬が発売になるという事態が起こるのです.これでは結局,日本の患者さん,ひいては国民に対して不利益となりますので,何とかしてほしいと思います.

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