バイオメディカルの展望を訊く―キーパーソンインタビュー

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難治性疾患治療を目指して

~医療ニーズと学術研究の接点 (3/5ページ)

【対談】中村良和,加藤茂明

特別対談「難治性疾患治療を目指して~医療ニーズと学術研究の接点」(実験医学2009年1月号より

疾患の情報にアクセスできる環境整備が必要

加藤 基礎研究者が難病の情報を入手しにくいという問題もあります.

中村 その辺は整備されるといいですね.難病の患者さんがどれくらい存在するのかさえ,実はよく研究されていなかったりします.そういう情報を基礎研究者にフィードバックして,「今,こういう状況です」と伝える情報交換の場があってもいいと思います.

加藤 例えば,何年か前に,私がタンパク質の複合体を核から抽出して同定したら,そこにウィリアムシンドロームという病気の原因因子が入ってたんです.それを発表すると,「ウィリアムシンドロームの患者さんは,どのぐらいの頻度でいるのか」と必ず質問されるのですが,結構調べても出てこないんです.意外に難病の患者さんが何万人当たり何人という簡単なWeb情報は,どこにもないんです.自分の病気がわかっても,患者さんが結局自分で調べなくてはいけないという状況ですので,そのようなパブリックなサービスを公的機構がやってもいいんじゃないかと思います.

対談風景 加藤茂明先生

中村 特定疾患の研究班でやられていますが,統計学的にはまだ十分でないようです.患者さんの数が非常に少ないため,難しいという現状もあります.

加藤 これだけWebが発達しているんで,複合的なバーチャルなセンターのようなものが必要だと思っています.基礎研究の例ですが,ショウジョウバエのデータベースでは,ケンブリッジ大学やオックスフォード大学などが,世界中の人が使えるシステムを整えています.日本でもそのような動きがあることを望みます.やはり,誰に直接メリットがあるかわからないようなところこそ,国が公的にサポートすべきです.

中村 難治性疾患に対して,多くの投資を獲得するには,情報発信が重要です.臨床でも基礎でも,難治性疾患にかかわっている先生は実は多いんです.皆さん,きっと爪に灯をともすような思いをされているのではないかと思います.また,そういう方々は皆「何とかしてほしい」と思っているはずです.
戦略的に,例えば疫学調査を行って公表し,どれだけ困っている人がいるかを伝えたりすることも大切です.それから,実は患者会が沢山あり,それぞれバラバラに活動しています.そこでは医師が必ず顧問をされていて,そういう先生たちが一堂に会して,「これだけ患者さんがいます」「これだけ困っているんです」ということをマスコミに出すのもよいかもしれません.そういう活動を行うことで,国も「これは動かないといけない」という意識になると思います.その意味でマスコミの力は,非常に重要であると思います.

編集部 実際それぞれの疾患の患者会は,どのような活動を行っていますか?

加藤 リウマチでは,患者さんのための,患者さんがつくっている雑誌が出ていますよね.新しい情報を得るために自主的にやっています.

中村 透析でもありますね.リウマチのように,患者数の多い疾患には,資金が集まりやすいので可能ですが,難治性疾患となると数千人とか数百人からぐらいですから,なかなか難しいんです.先ほど,日本では123疾患といいましたけど,ある米国のデータベースでは確か難治性疾患は6,000~7,000ほどあるそうです.

加藤 とにかく,米国のデータベースを少なくとも日本語版にするだけでも,意味のあることだと思いますね.

編集部 基礎研究者にとっては,そういう情報があれば,自分の研究がもしかしたら役に立つかもしれない,という発想につながるでしょうか?

加藤 全員そうである必要はもちろんありませんが,そういう環境整備は必要だし,道筋は示しておかないといけないと思います.それに私は難治性疾患は,やっぱり知らなきゃいけない1つのアイテムだと思っています.

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