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UJAだより

日本におけるAAASのような研究者コミュニティーをめざして―Japan Forum for Asian Science and Technology:JFASTとは?

UJA 北原秀治(東京女子医科大学/早稲田大学),赤木紀之(福岡工業大学)

れわれ海外日本人研究者ネットワーク(UJA)は,研究者間のコミュニティー構築の重要性を常に強調している.日本には古代の日本的集落にはじまるように,いろいろな分野で集団行動をしたがる傾向がある人種であると言える.またご近所付き合いに代表されるように,互いに助け合うという文化を大事にしている.海外においては,ボストン日本人研究者交流会(著者の北原は元副幹事長)のような日本人コミュニティーは多数あり,それぞれが助け合うことにより,言語も文化も違う国でも日本人が生きていける社会をつくっているのをよく目にする.そのようななかで,意外にも日本国内には科学者(研究者)の大規模なコミュニティーがない.いわゆる「学会」は学術集会が主な目的で,分野を超えた研究者コミュニティーとはやや意味合いが違う.日本学術会議が一番近いのかもしれないが,内閣府直轄であり助け合いを促す場かというと少し要素がずれてくる.

諸外国はどうか.アメリカにはAmerican Association for the Advancement of Science(AAAS)という代表的な科学者コミュニティーがある.学術誌「Science」の出版さえも手掛けているこの民間団体は,科学者間の協力を促進し,科学界からの情報発信や科学教育を支援している.ヨーロッパには「ユーロサイエンス」というヨーロッパ最大の科学者コミュニティーが存在している.ユーロサイエンスの特徴は,ベテランクラスの研究者と若い研究者がつながる場を常に提供している点があげられる.いまでも日本でしばしば見受けられるボスを筆頭とした階層社会でのトップダウンの一方的なコミュニケーションとは一線を画する形態だ.

UJAは,新たなコミュニティーとしてJapan Forum for Asian Science and Technology:JFAST(アジアの科学技術イノベーションのための交流会)を科学技術振興機構(JST)北京事務所と2016年に立ち上げ,日本のイノベーションエコシステムづくりを進めてきた.近年,アジアの科学技術イノベーションの高まりに対し,シンガポールや中国をはじめアジア諸国・地域の経済成長とともに,研究開発(R&D)やイノベーション,科学技術教育の行方に注目し,日本のイノベーションをアジアで起こしていこうという目的でJFASTを設立した.第1回JFASTを日本橋ライフサイエンスビル大会議室にて,2017年には第2回JFASTを城西国際大学にて開催した(https://www.uja-info.org/jfast).このコミュニティーのさらなる成熟を促すために,発展が著しいバイオ産業やエレクトロニクス産業を含めたハイテク産業にも着目し,中国やシンガポールなどの最新動向を理解しながら,今後の日本の課題を考えているところである.そして2020年5月24日には,中国上海総領事館で「日中友好サイエンスフォーラム」と名称を変え開催する予定であったが,新型コロナ感染症拡大の影響で中止となったのは非常に残念である.

日本を飛び出し,中国やシンガポールなどで科学技術研究を行う日本人研究者が増えてきた.存在感の増すアジアの科学技術イノベーションを対象に,その動向や課題について分野を越えて情報交換するコミュニティーや,日米欧との違いを議論するための場は貴重な存在である.そのためにわが国で新たな科学技術イノベーションを起こすには,日本人と日本人以外の研究者間のコミュニティー構築が重要である.在日外国人研究者や国外の研究者コミュニティーに日本人が入り込むことで,アジア全体を巻き込みつつ,現状では内需が見込めない日本でイノベーションを起こせるよう,UJAとJFASTでさまざまなしくみをつくっていく予定である.

2020年9月号掲載

本記事の掲載号

実験医学 2020年9月号 Vol.38 No.14
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内藤幹彦/企画
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