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UJAだより

多様性を高めたUJA論文賞2021

ノースウエスタン大学 冨田祐介,シンシナティ小児病院 松井理司,ボンド大学 伊藤みどり,インディアナ大学 河野龍義(リサーチアシスタントプロフェッサー/UJA理事)

2020年は世界中のあらゆる地域が新型コロナウイルスによって苦しめられた一年であった.日本人留学生もその例外ではなく,なかには留学生活を断念される方さえおられたため,UJA論文賞2021が無事開催できるのかどうかという不安もあった.しかし,若手研究者の挑戦を後押ししたいという思いのもと,新たに加わった多くの運営メンバーと審査員の協力により,今年は前年よりさらに規模を拡大してUJA論文賞を開催することができた.2021年4月10日(米国時間)に開催されたUJA論文賞のオンライン授賞式には幅広い分野の研究者が集結し,最新の成果を発表した受賞者に多くの賛辞と祝福が贈られた.多くの参加者が研究への意欲を掻き立てられたことと思う.本稿では,UJA論文賞2021で新たに行われた試みと,授賞式当日の様子について紹介したい.

今年度の新たな取り組み

UJA論文賞2021では,①対象地域の拡大,②対象分野の拡大,③審査員のマッチングシステム構築,という3つの新たな取り組みを行った.

UJA論文賞の原型は2014年にはじまった,ノーベル化学賞受賞者の根岸英一先生が審査委員長を務めるインディアナ州論文賞(IT-IJC Outstanding Research Paper Award)である.そこから徐々に地域を拡大していき,2019年には中西部4州の日本人研究者団体が中心となる論文賞にまで成長した.今年は中西部4州に加えて新たにジョージア州,南カリフォルニア地区,日本人医療従事者の海外留学を支援するチームWADAが加わり,合計8団体となった.アメリカ西海岸および東海岸の研究者グループが加わったことでUJA論文賞の規模は飛躍的に大きくなったと感じている.

対象分野拡張に関しては,UJA論文賞2021のvice chairを務めた古屋圭一朗さんの尽力もあり,これまで中心となっていた医学,生物学に加えて物理学,化学,工学分野を新設することができた.このことは,分野の偏りなく世界中で活躍する多くの日本人研究者の研究を表彰し,発信するための第一歩となると考えている.

分野拡張に伴い,さまざまな研究分野の論文を公平に評価する制度を新たに用意する必要があった.そこで,新たに審査員のマッチング制度を導入することにした.本制度は,あらかじめ審査員の先生に登録の際に審査可能な研究分野のアンケートを取り,それをもとに応募のあった論文を割り振るというものである.審査員の専門に近い分野での審査が行えたため,信頼性と公平性の高い審査にすることができたと考えている.

オンライン授賞式

表 UJA 論文賞2021の受賞者一覧

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図2 オンライン授賞式参加者による記念撮影

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UJA論文賞オンライン授賞式は2021年4月10日午後7時(米国東部時間)に開催された.当日は論文賞14名(),特別賞10名の受賞者を表彰するため,世界中から総勢76名が参加する授賞式となった.2020年同様にオンラインでの開催となったが,総合司会である高田望さんとメディプロデュース社の協力により円滑に式を進めることができた.今年は受賞者のなかから8名に記念講演をしていただいたが,その発表内容はいずれも素晴らしく,内容も生物学,医学,物理学,工学など幅広いものであった.詳細な内容や論文執筆のエピソードなどはウェブサイトに掲載されているので参照していただきたい.授賞式の最後では,UJA会長である足立剛也さんから閉会の言葉としてScience with borderlessをスローガンとした活動や研究者およびそのご家族をサポートしていく取り組みについて紹介いただいた.

授賞式を通じて多くの方に共通していると感じたのは,「多様性(ダイバーシティ)」を重視する姿勢である.冒頭の挨拶で古屋圭一朗さんは,各分野は自然科学の一つの側面を見ているに過ぎないため,このUJA論文賞がカテゴリを超えて語り合う場になればと,話されていた.また,来賓祝辞のなかで,UJA論文賞が率先して女性プロフェッショナルの活躍を推進する場になることを望むとの激励や,国境をまたいだ研究成果は信頼関係構築の賜物であるとのお話があったことも印象的である.多様性は近年日本でも重要になっている概念ではあるが,当然のことながらこれはUJA論文賞にとどまるものではない.研究留学生活においても,多様性を受け入れていくことは非常に重要なステップである.受賞者の一人である長井淳さんも,留学を勧める理由の一つとして技術的・人種的多様性のなかで仕事ができることをあげられていた.さまざまな方と交流して多様性を受け入れていくことは,人としての成長だけでなく学術的にも素晴らしい成果につながるのだと感じた.

今後の展望

今後も,対象地域や団体の拡大を進め,より多くの素晴らしい研究成果を発信する機会を増やしたいと考えている.その取り組みの一環として,2020年よりコミュニティ連絡会という日本人研究者コミュニティが連携するための会議なども行っている.また,UJA論文賞の対象分野をさらに細分化するとともに研究分野の枠を超えた参加をよびかけていくことで,UJA論文賞の多様性を高め,さらなる発展にもつながればと期待している.地域・分野が拡大しても安定した開催ができるよう,盤石かつ効率のよい運営体制を並行して整えていく必要もある.このような活動を通じて,論文の表彰にとどまらず,海外留学を通じたスタートアップ設立やキャリアパス,研究者の海外での地位向上を支援したいと考えている.長期的には,海外留学にチャレンジする日本人が増えていくことを強く願っている.

最後になったが,UJA論文賞の開催を支えていただいた在シカゴ総領事館,インディアナ州日本人会,デトロイト商工会,科学技術振興機構JST,そして実験医学編集部の皆様とスポンサーの皆様にこの場をお借りして感謝の意を申し上げたい.

参考

  1. UJA(一般社団法人 海外日本人研究者ネットワーク)
  2. UJA論文賞特設サイト
  3. 「UJA論文賞のスタート アメリカ中西部4州合同優秀論文賞の開催報告」実験医学 2019年7月号 Vol.37 No.11,羊土社

2021年6月号掲載

本記事の掲載号

実験医学 2021年6月号 Vol.39 No.9
精神疾患の病因は脳だけじゃなかった
全身性の代謝・炎症から腸内細菌、プロテオスタシスの影響まで

友田利文/企画
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