[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第34回 変わりゆく研究者コミュニティと学会の群雄割拠

「実験医学2013年4月号掲載」

「ご要望を多数いただいたため,演題登録の締切を*月*日まで延長します」

最近こんな文面のメールを目にすることが増えた.ほとんどの場合,この文章の《ホンネ》は,演題登録が予定数に足りていないので参加をどうにかご検討ください,といったところではないだろうか.一方,新しい研究者コミュニティ「定量生物の会」は毎年数百名の参加枠が締切日を待つまでもなく埋まるのが恒例となり,さながら人気コンサートのようである.また,筆者らが開催している「NGS現場の会」も,今年度の参加者数は昨年に比して実に4倍以上となった.何がこれほどまでに学会の明暗を分けるのか.

そもそも,学会が多すぎる.例えば,私の研究領域である生命情報科学では本年度の学会年会は三会合同で開催され,さらにこれらに加えて9つもの団体が参画した.これは国内学会だけの話であり,国際学会やそのサテライト学会などは枚挙にいとまがない.律儀にすべてに参加しようものなら間違いなく学会だけで1年が終わってしまう.となると,われわれ研究者は熟慮の末に本当に必要な学会に限定して参加せざるをえず,その選択が学会にとっても運命の分かれ道となるのである.

科学もまた人間の営みであるから,その本質は人と人,つまり研究者同士のコミュニケーションにある.従来,学会こそがまさにそういった研究者の交流の場としての役割を担ってきた.だが,コミュニケーションそのものがそうであるように,学会もまた,近年のIT技術の普及と発展によって大きな変容を遂げつつあり,その役割が見直されなければならない局面を迎えている.最近注目を集めつつある新たな若手中心の研究者コミュニティは,よって密な交流を行うためのさまざまな新しいしくみを取り入れている.まず,多くが全員発表を原則としている.参加者全員が高いモチベーションで主体的に議論をするためのしくみだ.次に,従来の学会の大部分をしめた一対多の講演形式を極力減らし,全員が議論に参加できる枠組みを積極的に取り入れている.詳しくはそれぞれの研究会のウェブサイトなどをご覧いただきたいが,例えばオープンバイオ研究会のオープンスペース,NGS現場の会のワールドカフェ,生命情報科学若手の会の懇親会を兼ねた長時間のポスターセッションなどは常に参加者から高い評価をいただいている.

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それでは従来の学会にもはや存在意義がないかといえば,当然そんなことはない.新しい現場の研究者コミュニティは特定の領域というよりは目的を中心に離合するため,目的が達成されれば発展的解散を行うこともありうるし,技術の移り変わりによって栄枯盛衰が左右されやすい側面もある.そのため,継続性や体系化は二の次となる場合があり,特に特定の分野における次世代の育成やアウトリーチ活動などでは従来の学会が担うべき役割は少なくない.双方が強みを活かしうまく連携していくことこそが21世紀型科学の発展を促進するはずだ.そこで私は,米国企業におけるM&Aのようなモデルを考えている.巨大な企業はその大きさ故に自社内で全く新規のイノベーションを起こすことは難しいので,注目に値する技術やアイデアをもつスタートアップ企業をM&Aすることでイノベーションを取り入れるようなしくみをもっている.同様に,特定の領域の中で生まれた研究者コミュニティを呼び集め,コミュニティ間の交流を促し,さらに領域全体としてのアウトリーチや若手育成など役割を積極的に担うことで学会もまたその領域を大きく発展させることが可能なはずだ.

研究者の時間が有限である以上,現状明らかに多すぎる学会は,そう遠くない将来ある程度淘汰されていくだろう.それがどういう方向に向かうとしても,苦し紛れの締切延長の案内を書く機会が減ってくれることを祈るばかりである.

荒川和晴(慶應義塾大学先端生命科学研究所/生命情報科学若手の会/NGS現場の会/オープンバイオ研究会)

※実験医学2013年4月号より転載