[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第105回 Pythonで医学に貢献を

「実験医学2019年3月号掲載」

Pythonをご存じだろうか.名前だけでも聞いたことがあるかもしれない.Pythonとは,汎用プログラミング言語であり,シンプルなコードと幅広い応用分野を特徴とする.Pythonを駆使するとさまざまなことが可能となる.簡単なグラフが描けるだけではない.微分方程式を解くことも機械学習でレントゲンやCTの画像を解析することも,1細胞RNA-seqやChIP-seqの解析だってできる.例えば,Kaggleなどのデータサイエンスのコンペティションではほとんどの参加者がPythonかRを用いて解析を行っている.ちなみに最近の私の趣味はドローンをPythonで操ることだ.

自己紹介が遅れたが,私は医学部の学生である.授業や実習の合間を縫って,制御性T細胞の分化を解明すべく,エピゲノムや1細胞トランスクリプトームの解析を行っている.Pythonはその手段として3年ほど前に触るようになった.私はPythonやbioinformaticsのコミュニティの,オープンかつイノベーティブな姿勢が大好きである.

医療についても考えることがある.例えば,医師国家試験で医学部生に要求されるのは膨大な暗記である.しかし,現代の医学体系を丸暗記で終わらせるのはもはや不可能で,重要なのは確固たる骨組みを構築し,的確な情報へすばやくアクセスし,尤もらしい(得られた情報で最良の)選択肢を探索する能力ではなかろうか.時代が変わると求められるものも変わるであろう.シークエンスデータや画像データにとどまらず,医療情報においても,医療情報データベースの発展とともに短期間で巨大な情報を集めることが可能になってきた.私の指すプログラミングというのは,これらのデータと向き合う共通の対話言語である.逆に,簡単なプログラムを書くということは,これからの時代ではリテラシーの位置づけになるであろう.その点でも,医学とPythonの学習は非常に相性のいいものであると私は信じている.

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ただ,ラボ内や同世代に同じようなことをしている人が身近にはおらず,独学で一からPythonを勉強するにあたっては困難も多かった.はじめのうちは勉強方法もコミュニティの存在も知らなかったためである.そこで,いっそコミュニティからつくればいいのではと思いたち,昨年,大阪大学医学部Python会という集まりをはじめた(https://pythonoum.wordpress.com/).現在ではメンバーは1年生から6年生まで30人ほどに増え,bioinformaticsだけではなく脳科学,医療情報学,公衆衛生,遺伝統計学といったさまざまな背景をもつ学生が意見交換やレクチャーを行っている.また,地道なPR活動のおかげで大阪大学医学部のほとんどの学生がPythonという単語を聞いたことがあるという嬉しい状況にすらなっている.

YMOのシンセサイザーが音楽を変えたように,コンピューターは研究や医療のあり方を大きく変えるだろう.もちろん,今でもコンピューターによる恩恵は十分すぎるほど大きいが,今後はさらにそのあり方の次元が変わるに違いない.先日ある教授に20年後はどうなっていると思うか聞かれたが,全くわからない.しかし,20年後をともに戦う,同世代の仲間が増えることを楽しみにしている.そして,私も何気なくはじめたPythonで医学に貢献できる日が来ることを夢見ている.

安水良明(大阪大学医学部医学科/大阪大学免疫学フロンティアセンター実験免疫学)

※実験医学2019年3月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2019年3月号 Vol.37 No.4
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