[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第107回 帰国後も飛べる!「トビタテ! 留学JAPAN」

「実験医学2019年5月号掲載」

「すべての意欲ある若者に多様な海外留学の機会を」という目標を掲げてはじまった「トビタテ! 留学JAPAN」は,民間資金を活用した官民協働の国家プロジェクトである.応募者の自由な留学計画のプレゼンテーションをもとに選考が行われるのが特徴で,選抜されると支援企業から(返還不要な)奨学金の形で「投資」を受ける立場となり,留学から帰国後も,トビタテ! 日本代表メンバーとしての役割と責務を担うことになる.

私も昨年,修士課程での専攻である腸内細菌叢をテーマにしたプランが採用され,学生の身分でありながら親に負担をかけずに渡米し,ボストンの研究機関の訪問や,ケンブリッジにある創薬ベンチャーでのインターンシップを実現することができた.アルバイトでコツコツ資金を貯めていたようではいつ実現したかわからないと考えると本当に幸運だったが,この制度で留学するメリットは,じつはそれだけではなかった.

まず,渡航前に何度か研修があり,一緒に採用された同期生たちとそれぞれの計画について共有する.私の同期生には,スイスで家庭用ロボットの研究を行う者や,バイオ研究の幅を広げるために中国へデータサイエンスを学びに行く者,デンマークで教育を学んだ後にウガンダで実践を試みる者など,さまざまな学生がいた.この事前研修で互いの計画をブラッシュアップし,自身の留学の目的をより明確にできたことは,留学をただ渡航するだけで終わらせないために必要だったと思う.

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「研究留学のすゝめ!」

研修で知り合った同期生たちとは,留学中もSNSを通じて互いの体験を報告し合っていた.留学は行ってみないとわからないことや,さまざまなアクシデントがつきものだが,SNSで励まし合うなど,単身渡米したにもかかわらず,常に仲間との連帯感があったのはとても心強かった.

帰国後は,関西にある支援企業の研修所での研修に参加した.ここでは留学中に撮影した写真や動画を活用したプレゼンとディスカッションで,互いの成果を確認した.トビタテは高校生から応募できるが,大学生や院生の場合は,インターンシップなど専門分野を深めるために留学することが多い.特定の分野を究めることは重要だが,今まで興味のなかった異分野の専門知識や他人の経験を共有することで,視点を切り替えて考えることができるのは新鮮な発見だった.インターンシップ先のベンチャー企業の経営者が腸内細菌の研究者だったことからも,専門分野が一つしかない人材より,異なる専門性を掛け合わせる人材が活躍しているのだなと,今回の留学先で感じた.また私と同じ腸内細菌叢のテーマでも,ベトナムとウガンダに留学し,現地の飲み水や農作物の大腸菌汚染源を調査した学生もいて,互いに知見を深めることができた.

このように「トビタテ! 留学JAPAN」の魅力は,企業からの奨学金のみならず,その充実した研修と大きなネットワークにある.さらに,まさに本稿を書いているようにその魅力や自身の留学について話し,いろいろな形で発信することで,今まで出会えなかったさまざまな分野で活躍する多くの人とつながることができる.そして発信しながら留学後も人から学び続け,自身が成長を続けることが,トビタテ生の役割であり,責務なのだと感じている.

越田航平(慶應義塾大学大学院薬学研究科生化学講座修士1年生)

※実験医学2019年5月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2019年5月号 Vol.37 No.8
運動ってなんだ?
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澤田泰宏/企画

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