一般内科,総合診療でよく出合う疾患について,各ガイドラインの要点と,ガイドラインと現場とのギャップを埋める国内外のエビデンスを1冊に.実際の現場ではどう考えるか,どこまで診るか,がサッと調べられます.
この意欲的な書籍で取り扱われている疾患群は,プライマリ・ケア外来において総合診療医あるいは家庭医が日常的に取り組んでいる健康問題群である.
自分の診療レベルは本当に標準的なものなのか? という疑問は,すべてのジェネラリストが常に直面するものである.しかし「標準」は何か? を示す診療ガイドライン(以下ガイドライン)も,新たにあらわれるさまざまな臨床研究の結果定期的に更新されるものであるし,そもそもガイドラインそのもののあり方も継続的に問われている.近年重視されているGRADEシステムに準拠したものから,あいかわらずのエキスパートオピニオンのみで構成されるものまで,その質には相当な幅がある.また,多くの日本のガイドラインが有料であることも問題視されている.しかし,ガイドラインが,総合診療医が自ら作成していかねばならないナレッジベース(知識基盤)の重要な構成要素であることは間違いない.そして,この書籍の構成はまさに総合診療医のナレッジベースのあり方を具体的に示している点で,単なるガイドラインの解説書にとどまらない内容をもっていると言えるだろう.
プライマリ・ケア外来における主要疾患の現時点でのガイドラインの要点が簡潔にまとめられていること自体きわめて有用であるが,さらにビヨンド・ザ・ガイドラインという項目で,著者が診療のコンテキストのなかで重視している独自の「考え」や「経験」を記述しているところが面白い.
標準的な診療を行えばすべてがうまくいくということは当然なく,予想外のことや驚きに出合うのが臨床現場である.こうした予想外のことや驚きを振り返ることによって,自分なりの実践の理論(theory in practice)を蓄積していくことが現場のエキスパートとしての成長を保証する.こうしたエキスパート像をドナルド・ショーンは省察的実践家と呼んだが,これは生涯学習として,ガイドラインを考慮に入れることに加えて,個々の臨床経験自体を重視することが重要であることを示している.
また,Gabbayら1)が英国家庭医の診療に関するエスノグラフィー研究で提示したように,家庭医の診療はガイドラインに沿って診療をしているのではなく,ガイドラインを包含しつつも,診療のコンテキスト,地域性,同僚とのつながりなどにより構成される「マインドライン(mindline)」に沿って診療をされているといわれている.本書は,そうした現実の総合診療医のプライマリ・ケア外来診療の様相を具体的に記述しようとする試みにもみえる.
本書を編集した3名の若手医師は,CFMD家庭医療学レジデンシープログラムの第一期生である.彼らと一緒に日本における家庭医療の新しい研修を作り上げることを目指して苦闘していた日々を懐かしく思い出す.そして今,彼らがこうした意欲的なプロダクトを世に問うたことを誇りに思う.ぜひ多くのプライマリ・ケアに従事する臨床家に読んでほしい.そして,読者がこの本をきっかけに,自分ならではのナレッジベース,そして診療マインドラインを作っていってほしいと強く願う.
参考文献:1)Gabbay J & le May A:Evidence based guidelines or collectively constructed "mindlines?" Ethnographic study of knowledge management in primary care. BMJ, 329:1013, 2004
藤沼康樹〔医療福祉生協連家庭医療学開発センター(CFMD)〕
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