第14回「麻酔科研修で勝手に索引!」誌面掲載全文|Dr.ヤンデルの 勝手に索引作ります!

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麻酔科研修で勝手に索引!

やさしくわかる!麻酔科研修

讃岐美智義/編著

定価3,190円(本体2,900円+税10%) A5判 280頁 学研メディカル秀潤社

やさしくわかる!麻酔科研修

麻酔科の本である.本の帯には誇らしげに「重版出来!」の文字が踊る.えっ,麻酔科の本が重版するの,すごいな.マジか.いいな.病理の本も重版しないかな.

というわけで,今日のはだいぶ売れ筋の本である.もう売れているのだから,容赦はしない(笑).今日はとことん正直に書こう.別にいつもウソは書いていないけれど,今回に関してはタテマエ的な部分をとことん排除する.選書すると決めたらほめる,なんてつまらない原稿にはしないぞ! これまで無数の医学書を読んできて,ツイッターでも医書マニアと(自)称される私ではあるが,さすがに病理医と麻酔科は接点ないわ……と思って,麻酔科領域の書籍はついぞ読んで来なかった.精神科の本もスポーツ整形の本も美容整形の本も買い求めてきた私が,麻酔科だけは変わらず,ノーマークのままであった.

私にとっての麻酔科は,「日常でまずめったに訪れない,医療界で一番遠い場所」である.北海道民にとっての四国とか山陰みたいなイメージ.札幌からの物理的な距離で言えば沖縄が一番遠いのだけれど,札幌と那覇の間には直行便がある(※季節限定)のに対し,四国と山陰へは飛行機を乗り継がないとたどり着けない.リアルにめんどくさい遠さだ.麻酔科はこれに似ており,外科などに「中継」してもらわない限り,病理医である私はまずたどり着くことがない,心の距離の遠い科であった.

しかし,だからと言って麻酔科の書籍すら読まないというのは,今にして思うと「機会損失」であった.最近ようやく,「医師を続けるなら,麻酔科の本を読まないのはもったいないのでは?」と気づいた.そのきっかけとなったのは,ほかでもない,あなたが今お読みになっているこの「勝手に索引!」であったのだ.

本連載の第4回で,私は『研修医のための外科の診かた、動きかた1)という本を取り上げた.この中で,私は該当書籍を評して以下のように述べた.

「疾病に関わらず,患者の状態を維持するための知恵」が満載だ

「手技的な科」の最たる所であろうと思い込んでいた外科の本に,病棟管理のノウハウがあれこれ書かれていることに,1年前の私は少なからぬ衝撃を受けた.「患者の状態を維持する仕事」に多くの医師・医療者がけっこうな労力を割き,頭を悩ましていることを知り,興味をもつようになった.

維持管理の本って,これまで全然読んでこなかったけど,もしかして,おもしろいんじゃないか?

『外科の診かた』1)も非常にいい本だったが,維持管理といえば麻酔科の本を読むべきだろう.そう気づいて,ひそかに,連載で取り上げる予定がまだ立っていなかった麻酔科の本を探し始めた.

そんな私がようやく出会ったのが,今回紹介する『やさしくわかる!麻酔科研修』だったのである.

少し前置きが長くなったが,今回の「勝手に索引」を見ていただこう.Webでは完全版を公開.QRコードからぜひアクセスしてみてほしい.本稿では,索引の一部を抜き出しながら解説する.

市原のオリジナル索引①

読み 項目 サブ項目 ページ
Cをおお 「C」を大きく作らず,マスクの上部で小さくして,下顎を引き上げる指の中指と環指に力を入れる 85
MAC MAC-awake MAC-awakeは,50%のヒトが覚醒する濃度である 151
MAC-awakeの2倍である2×MAC-awake(=0.66 MAC-awake)に近い0.7 MACで管理することが多い 153
McGRATH McGRATH MACのブレードの湾曲に合わせて挿管チューブ(スタイレット)をあらかじめ曲げておくことは大きなポイント 94
MJ MJ 18
MJにた MJに対する薬物のカクテル投与 19
PaCO2 PaCO2は脳血流に敏感である 138

タテマエを排除するならば,私にとって,ページをめくりはじめる前の本書の印象は,

「とはいえ,麻酔科の本だからなー」

であった.どこまで自分の役に立つかなあ…….半信半疑のまま,おっかなびっくり読み始めた最初のエピソードが,「MJ」.

ええっ,松本潤!

ちがう,MJとはking of popことマイケル・ジャクソンである.原稿タイトルは「マイケルの死に学ぶ鎮静」.こういう有名人エピソードで耳目を集める記事って,ウェブでよく見るけどあんまりクオリティ高くないよね(タテマエを排除した発言).ややハスに構えて読み始めた私は,次の記載に安堵することになる.

市原のオリジナル索引②

読み 項目 サブ項目 ページ
ふしぎで 不思議であると思ったあなたは正常である 149
ふらんく フランク・スターリング曲線は,「入れてから叩く」(輸液を入れてから,心収縮力を上げる)ことを教えてくれる 111
ぷろぽふ プロポフォールを投与した後に持ち場を離れるとは何事であろうか 19
へいきん 平均血圧 「平均血圧」は臓器血流の指標の血圧 106
平均血圧は60 mmHgより高く保つことが大切 107

「プロポフォールを投与した後に持ち場を離れるとは何事であろうか」.MJの専属医であった某医師が,不眠であったMJを眠らせるために施行した「鎮静」を「適切にモニタリングしなかったこと」を,著者である讃岐先生はシンプルに責めていた.「あ,プロ」と思った.そして私は本書にある種の「信頼感」のようなものを抱いた.この本なら維持管理の真髄みたいなものを得られそうだなあ.

市原のオリジナル索引③

読み 項目 サブ項目 ページ
80さい 80歳では−20%程度になる! 152
ABC ABCを中心としながらもDとEにも配慮して 66
ACE ACE阻害薬ARB内服患者は要注意で,周術期低血圧を頻繁に起こすため,前日で内服を中止する必要がある 240
BIS BIS(bispectral index)などの脳波で,全身麻酔レベルが深くなったような感じ(具体的にはBIS値が低下) 56
CO2 CO2モニタリングを根本から見直すべきではないだろうか 139

実際,維持管理に関する描写はどれも鋭く,長すぎない文章でわかりやすく記載してあり頼りになる.前書きに「高校生でも読める」とあり,や,それはきついと思うが,少なくとも医学生以上であれば本書は余裕で通読できる.たいていの医学書が身に纏う,独特のハードルの高さみたいなものを,本書からはほとんど感じない.

ただし,ハードルが低いというのは,理念が弱いことを意味しない.

市原のオリジナル索引④

読み 項目 サブ項目 ページ
かんきこ 換気困難・挿管困難 cannot ventilate, cannot intubate(CVCI) 72
かんどう 冠動脈ステント留置思者の場合 239
きかんそ 気管挿管 気管挿管ができるだけの医者はいらない! 30
気管挿管困難についてはLEMON 88
気管挿管の極意とは,「気管挿管を行っているあいだ中,気道を解放し続けることである−byさぬちゃん先生.」 90
ききてき 危機的出血が起きた場合 209
キセルま キセル麻酔 219

著者の讃岐先生が研修医のころ,市中病院に出向した際に先輩から言われた言葉だ.「気管挿管ができるだけの医者(麻酔科医)はいらない!」 ひいっ,気管挿管もろくにできない私は土下座してしまうのだけれど,続けてこのように書いてある.

「気管挿管ができるということはもちろん大切だが,(中略)気管挿管の周囲にあることを多く学んで,その周囲にあることを深く掘り下げることが,専門性(専門医としての道)につながる」

はたと膝を打つ.

専門医のひっさげる「武器」は,それ単体で光り輝くようなわかりやすい勇者の剣であってはならない.それだけでは足りない.剣の周りにあるもの……「周囲」が重要なのだ.これは,私の職業である病理医であってもまったく一緒だと思う.「顕微鏡が見られるということはもちろん大切だが,鏡見の周囲にあることを多く学んで深く掘り下げることが,専門性につながる」.言葉を入れ替えても完全に意味が通る.たぶん全科の指導医が納得してくれるだろう.

周囲が大事なのだ.境界が大事なのだ.辺縁が大事なのだ.

「キワに強い医師」に,私は専門医としての迫力を感じる.

その目で改めて読み返してみると,本書は,確かに「維持管理」をあれこれ書いた本ではあるのだけれど,それ以上に,維持とその周辺を豊富に書いていることが実感される.

実際,索引項目を眺めていても,そこかしこに「周囲」の香りがする.たとえば,「は」の項目をご覧いただきたい.

市原のオリジナル索引⑤

読み 項目 サブ項目 ページ
はいけっ 肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症のリスク分類 246
はいこう 肺塞栓ではほとんどCO2は呼出されない 135
はいしし はい! 師匠 131
ばいたる バイタルサインとは 57
はいのぷ 肺のプラトー圧を上げたくない症例や乳幼児の症例ではPCVとすることが多い 99
ばかもの ばかもの! 125
ばらんす バランス麻酔 バランス麻酔の臨床を加速させたのは 147
バランス麻酔は,昔の麻酔とは異なり,血圧や脈拍のみを指標に調節できるシロモノではない 161
ひとくち 一口(ゴクッ) 243
びょうと 病棟に帰した患者であれば,手術翌日に回診に行って立位,自立歩行が可能であればOK 253
ふぉれす フォレスターの分類 112
ふしぎで 不思議であると思ったあなたは正常である 149
ふらんく フランク・スターリング曲線は,「入れてから叩く」(輸液を入れてから,心収縮力を上げる)ことを教えてくれる 111

「肺血栓」「肺塞栓」「バイタル」「フォレスター分類」「フランク・スターリング曲線」…….これらの項目は,私がこれまで「勝手に索引」を作ってきた中で,何度か抽出してきた項目と同じである.何が言いたいかおわかりだろうか? 麻酔科オリジナルの項目ではないということだ.上にあげた中で,他の教科書には出てこない麻酔科独自の項目となると,「バランス麻酔」くらいではないか.

そのことが,かえって,麻酔科という仕事の本質を感じさせる.

麻酔科で学ぶべきは,麻酔という「剣」だけではない.麻酔科以外の領分とオーバーラップする辺縁領域にこそ,多くの価値がある.

これまで,肺塞栓も,フォレスター分類も,フランク・スターリング曲線も,他の教科書ですでに索引抽出してきた.でも,見慣れた項目を,あらためて麻酔科の本を通して読むことで,循環器や画像の本から受け取った表現とはまた少し異なった,視座も切り口も印象も違う文章たちが,脳内に油絵のように塗り重ねられていく.

自分で索引を作りながら教科書を読むと,知識が多角的に重積していくのだな,ということを,最近は確信している.これは,企画をはじめたころには意識していなかったうれしい誤算だ.

最初は遊んでただけだったのに.

* * *

なお,麻酔科独自の項目も,読んでいて普通におもしろい本である.「キセル麻酔」と「キセる麻酔」の違いを,あなたは,ご存じだろうか?

市原のオリジナル索引⑥

読み 項目 サブ項目 ページ
ききてき 危機的出血が起きた場合 209
きせるま キセル麻酔 219
きせるま キセる麻酔 219
ぎゃくに 逆に「血液相に溶け込みやすい=血液ガス分配係数が大きい」吸入麻酔薬は,血液相が飽和するのに時間がかかり,なかなか肺胞内分圧(ガス相)=血液内分圧(血液相)とならず,麻酔の導入は遅れる 154

文 献

  1. 「研修医のための外科の診かた、動きかた」山岸文範/著,羊土社,2019

著者プロフィール

市原 真(Shin Ichihara)
JA北海道厚生連 札幌厚生病院病理診断科 主任部長
twitter:
@Dr_yandel
略  歴:
2003年 北海道大学医学部卒業,2007年3月 北海道大学大学院医学研究科 分子細胞病理学博士課程修了・医学博士
所属学会:
日本病理学会(病理専門医,病理専門医研修指導医,学術評議員・社会への情報発信委員会委員),日本臨床細胞学会(細胞診専門医),日本臨床検査医学会(臨床検査管理医),日本超音波医学会(キャリア支援・ダイバーシティ推進委員会WG),日本デジタルパソロジー研究会(広報委員長)
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