第21回「皮疹の診かたで勝手に索引!」誌面掲載全文|Dr.ヤンデルの 勝手に索引作ります!

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皮疹の診かたで勝手に索引!

定価4,400円(本体4,000円+税) A5判 264頁 医学書院

誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた

いつの頃からだろうか.私は,物事をただ暗記するのではなく有機的なつながりの一成分として捉えることに,「過剰なあこがれ」を抱いている.単に「いいね」と思っている程度ではすまない.ものすごくあこがれている.

医療の現場で,一を聞くと周辺事項を十も二十も教えてくれる人を尊敬する.学会の講演で,一つのきっかけから芋づる式に知恵を取り出す演者を見るとすかさず私淑する.クイズ番組で,早押しで押し勝っておきながら「たまたま知ってました~」と頭をかくタレントよりも,「なぜそんなマニアックなことを覚えていたのか」を理路整然と説明できる東大王のほうがかっこいいと思っている.

最後のはちょっと違うか.いや,違わない.「ただ知っている」よりも,「理路がつながっているからわかる」のほうにあこがれる,同じ評価軸の話だ.

そんな私だから.

知識をナラティブに埋め込んで語ってくれる「通読型」の教科書が好きでしかたがない,これは今までもくり返し語ってきたことである.

本連載『勝手に索引!』は,私にとって,「知識を連鎖的に蒐集する欲」を存分に満たせる最高の場所だ.自分の専門である病理学から遠く離れたところにある精神科や麻酔科の本すら楽しく読み,あろうことか自己流の索引まで作ってきた.これもひとえに,必要な知識が辞書的に網羅されている本よりも,現場の知恵を物語として語る本のほうが,単純に私の好みに合致していたからである.

と,まるで最終回のような書き出しをしてしまったが(もうちょっとだけ続きます),今日の本,『誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた』は,これまでのお題本のなかでも一二を争うくらい,しみじみ良かった.

何がそんなに良かったのか.

ふっつうーに(※普通に),実践レベルでめちゃくちゃ役に立つ本だったのである.仮にも医師20年目の現役病理医が,研修医でも読めるレベル設定の本で,ここまで勉強できるとは!

もちろん,今まで詳解してきた本も全部すごい本ばかりなのだけれど,今回のは純粋に,「私にベストマッチ」であった.今日の原稿はテンション高いぞ.

さあ,今回の「勝手に索引」を見ていただこう.本稿では,索引の一部を抜き出しながら解説する.Webでは索引の完全版を公開.QRコードからぜひアクセスしてみてほしい.

なお,最初にお断りしておくと今回の「勝手に索引」は項目がやや少なめである.本書はこまかな専門用語を羅列することなく,代わりに皮膚写真と「理解を深めるためのシェーマ」が豊富に掲載されていて,ビジュアルの力が強い.その分,文字数や単語数はさほど多くない.極めて通読向きの本と言える.しかしそんな本であっても「勝手に索引の流儀」を実行すると,なかなかおもしろい項目が抽出できる.たとえばこのへん.

市原のオリジナル索引①

読み 項目 サブ項目 ページ
こうはん 紅斑以外の皮疹を途中から示すこともあります 128
さわって 触ってみると盛り上がっている 197
しっしん 湿疹 なぜ白癬の皮疹は湿疹に似ているのでしょうか 17
湿疹と白癬は見た目では区別できない場合が多い 17
【湿疹の定義】表皮の炎症 26
原因が明らかではない湿疹の多くは,刺激性皮膚炎の一種であると推測されています 30
湿疹病変であれば常に接触皮膚炎を疑って診療を行う 31
湿疹と見分けがつきづらいのは皮膚真菌症 38
赤みや痒みは比較的すぐによくなりますが,皮膚のゴワゴワ感は残っている(つまんでみると硬い)ことが多い 65
赤みや痒みがなくなっても,硬さがなくなるまで数日間は外用を続けたほうがよい 65

いいよいいよー.「なぜ似ているのでしょうか」にぐっとくる.あなたもピンと来ただろう.来ていない? できればついてきてほしい,「なぜ似ているのでしょうか」を扱う教科書ってのは貴重なのです.

なぜ貴重かというと,「似ている」こそは臨床のテクスチャを走査する上でのキー概念だからだ.似ているから診断に迷い,似ているから誤診する.すべてがきれいに切り分けられれば苦労はない.測定済みの数値,解明済みの物性,確立したエビデンスを詳解する専門書も大事だけれど,結局医者は日常で,「似ているもの」のなかで右往左往する.

そういえば,「似ているもの」についての記載がある雑誌の特集はよく売れていると思う.最近,模倣とかミミックといった単語が症例報告でも頻繁に使われるようになった.わかる,やっぱ,そこ読みたいもんな.そして,「似ているもの」をただ列挙してもらうだけでも診療の役に立つが(奇書『Kunimatsu’s Lists』1)を読め),そこに「なぜ」が掛け合わされたとき,私は「いい記事だなあ!」と感じる.どれが似ているか,ではなく,どのように似ているか,でもなく,なぜ似るのか.仮説がきちんと形成された文章に強い知性を感じる.

「似ている」というのは主観的な評価だ.病気どうしは似ようと思って似ているわけではない.「たまたま形態が似ている」こともいっぱいある.理屈がないままに似てしまっていることもあり得る.しかし,一見するとまるで違う病気どうしが,裏に共通の病態生理学や症候学を隠し持っていて,そのせいで「似るべくして似ている」ときも確かにある.理由のある類似性を指摘するということ.それが,「なぜ似ているのでしょうか」という文章ににじみ出る.以上を踏まえて,先ほどの一文を,もう一度読んでみてほしい.

「なぜ白癬の皮疹は湿疹に似ているのでしょうか」

ああーいい.こういう本ばかり読んでいたい.

◆ ◆ ◆

次に行こう.実務的にふつうに役に立つのはこういうところだ.あなたが皮膚科に一切興味がなく,一般外科医や精神科医,産科医として働くつもりでも,この項目は避けて通れまい.「薬疹」である.

市原のオリジナル索引②

読み 項目 サブ項目 ページ
やくしん 薬疹 過去1か月以内に開始した薬剤はすべてピックアップするのがよい 110
薬疹はありとあらゆる皮膚症状を起こすため,すべての皮疹に薬疹の可能性がある 94
薬剤に対する全身性の免疫応答で皮疹が生じる 108
薬剤投与から3日以内の発症は薬疹の可能性は低い 110
軽症では炎症が真皮に留まっていますが,重症になると表皮にまで炎症が波及しています 112
重症とは,発熱と粘膜病変を伴うかどうか 115
薬疹を疑ったときは,まず発熱と粘膜病変があるかどうかを確認します 115
ゆうどひ 尤度比 尤度比 237
尤度比の目安(検査前確率が10〜90%の場合) 238
視診の尤度比(皮膚真菌症の診断) 240

薬疹ってほんと何科でも関係なく見るからね.皮膚科コンサルトの一番多いパターンって病棟での薬疹疑いじゃないかな? 患者の目の前で皮膚を見なければならないシチュエーションで,「皮膚はわかんない」とはなかなか言えないあなたは,本書を買って読む動機が十分にある.重症薬疹の定義を頭に叩き込もう.

市原のオリジナル索引③

読み 項目 サブ項目 ページ
がいよう 外用薬 外用薬が最も効果を発揮するのは表皮の病変です 32
塗り方が間違っている 63
患者が「きちんと塗っている」と思っている方法が,医師が期待しているものと違っている可能性 71
がいよう 外用療法 「よくなったら外用をやめてください」と患者に指示をする医師がいますが,そのような指示では適切な外用期間がわかりません 66
外用療法とは,外用薬を処方するだけではなく外用指導とセットで効果を発揮する治療法 66
せっかく医師を変えたにもかかわらず,処方されたのが前医と同じ薬であれば,薬を塗る気も高まらないでしょう 72
かくが 核が残ったままの不完全な角層 23

あと,こういうのも好き.「診かた」や「考えかた」の先に,「実践のしかた」,「患者に対する向き合いかた」,「説明のしかた」がきちんと書いてある本.きっと多くの医者が救われることだろう.病理医である私が個人的に唸ったのは,「せっかく医師を変えたにもかかわらず,処方されたのが前医と同じ薬であれば,薬を塗る気も高まらないでしょう」のところ.いわゆるアドヒアランスの話なのだけれど,このくだりがどこに出てくるかというと,「ステロイドと抗真菌剤のどちらを先に塗るか」の流れで出てくるのだ.いいセンスだなあ.

市原のオリジナル索引④

読み 項目 サブ項目 ページ
はくせん 白癬 環状の皮疹(体部白癬) 40
白癬にステロイド外用薬を誤用していると,炎症が抑えられ症状が非典型的になります 41
はくだく 白濁した液体が貯留した皮疹があります.このような皮疹を膿疱と呼んでいます 226
はつねつ 発熱 発熱は重症薬疹の診断基準の1つとなるだけでなく,皮膚疾患の重症度の指標になる 128
皮膚感染症や自己免疫疾患は発熱しないことも多い 181
はやいし 「速い思考」と「遅い思考」 207
ひしんが 皮疹が湿疹なのか白癬なのかわからないとき,治療薬はステロイドを選択してください 10
ひしんの 皮疹の赤みは炎症に伴う真皮の血管の血流増加によります 47

皮疹が湿疹なのか白癬なのかわからないとき,治療薬はステロイドを選択してください」はちょっと意外であった.「えっ,感染の可能性があるのにステロイド使うの?」と,臨床を知らない病理医は(著者の思惑通りに,まんまと)食いついた.このあたりの記載,皮膚科医やベテランの内科医であれば当たり前なのかもしれないが,皮膚の治療から遠いところにいる私は専門医でありながら膝を打ち,「そういう話を学生時代にもっと教えてくれりゃいいのにさ」と少し口をとんがらせたのである.研修医の皆さんはどうだろう? ……まあいいや,今回の本は普通に私のためになる.

本書は基本的におだやかでわかりやすい,初学者向けの語り口だ.ただし,ときにハッとするような文章もねじこまれているので油断ならない.

市原のオリジナル索引⑤

読み 項目 サブ項目 ページ
ちょうき 長期間改善しない中毒疹は悪性リンパ腫の可能性も考慮 137
ちょっか 直感(inspiration)は本能に基づく偶然のひらめき 208
ちょっか 直観(insight)は経験に基づく判断 209
ちょっか 直観的に帯状疱疹だとわかると思いますが,それでは診断力を鍛えることはできません 229
ていきつ 定期通院している患者では油断が生じる 41
とうにゅう 投入する硬貨の種類(原因)が違っていても,自動販売機(皮膚)からは同じペットボトル(皮疹)が出てくる 85
にっこう 日光角化症は長期にわたる紫外線曝露により誘発されるため,高齢者の露光部,特に顔面に好発 59

直観的に帯状疱疹だとわかると思いますが,それでは診断力を鍛えることはできません」.おおいい文章だなあ.こういう指導をするのもアリだなあ.いつしか私は本書を通じて,「病理学でもこの本と同じような指導ができないだろうか」という命題に向き合っている.あー読んでよかった.でもこれ病理医と皮膚科医くらいにしか刺さらないかもな……なんて余計な気を回しながらちょろちょろとググってみたらベストセラーでやんの.なんだ,普通にみんな,読んでんじゃん.

文 献

  1. 「Kunimatsu’s Lists ∼國松の鑑別リスト∼」(國松淳和/著),中外医学社,2020

著者プロフィール

市原 真(Shin Ichihara)
JA北海道厚生連 札幌厚生病院病理診断科 主任部長
twitter:
@Dr_yandel
略  歴:
2003年 北海道大学医学部卒業,2007年3月 北海道大学大学院医学研究科 分子細胞病理学博士課程修了・医学博士
所属学会:
日本病理学会(病理専門医,病理専門医研修指導医,学術評議員・社会への情報発信委員会委員),日本臨床細胞学会(細胞診専門医),日本臨床検査医学会(臨床検査管理医),日本超音波医学会(キャリア支援・ダイバーシティ推進委員会WG),日本デジタルパソロジー研究会(広報委員長)
本記事の関連書籍

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松田光弘/著

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