画像診断ワンポイントレッスン

NEW 第3弾が発行になりました!(2022年12月20日発行)

第3回 急性腹症のCT読影をスキルアップ!~腎臓の造影不良域から何を考える?~

症例1 31歳女性.右背部痛と尿,血液検査所見から,尿路感染症が疑われ,CTが撮影された

カンファレンス

指導医:臨床所見から尿路感染症が疑われてCTが撮影されたのだけれど,所見はどうかな?

研修医:単純CT(図1)では明らかな異常は認められないように思われますが,造影CTでは右腎の実質内に楔状~斑状の造影不良域が複数箇所認められます(図2:).腎盂腎炎を示唆する所見と思われます.

指導医:よく勉強しているね.ただし,この場合は腎盂腎炎というよりもAFBN(acute focal bacterial nephritis:急性巣状性細菌性腎炎)と表現した方が適切かもしれないね.AFBNは知っているかい?

研修医:はじめて聞きました.腎盂腎炎とは違うのですか?

指導医:AFBNとは,腎実質に巣状に強い細菌感染症を生じているのだけれど,まだ液化(膿瘍化)していない状態で,通常は腎盂腎炎が進行した病態とされているんだ1,2).すなわち,腎盂腎炎→AFBN→腎膿瘍と進行する一連の病態という解釈だね.ただし,AFBNは腎盂腎炎からではなく血行性に細菌感染を起こして発症することもあり,その際は尿所見が異常を示さないこともあるので注意が必要なんだ.一般にCT所見からは以下のように区別されているね3)

ワンポイント

  1. 腎盂腎炎:造影早期(動脈優位相あるいは皮質相)に巣状の造影低下域(楔状,島状)を認めることがあるが,造影後期(平衡相)では周囲正常腎実質部と同様に造影される.
  2. AFBN:巣状造影低下域は平衡相まで続くが,造影効果は完全には消失しないで残存している.
  3. 腎膿瘍:病巣の一部にすべての相でまったく造影効果を示さない(すなわち液化した),より低吸収の部分が存在する.同部は単純CTでも正常腎実質部より低吸収(すなわちwater density)のことが多い.

研修医:なるほど.造影CTは尿路感染症の重症度を知るうえでも重要なのですね.そのほかにも,何かポイントがあれば教えてください.

若手放射線科医:腎疾患を疑った場合には,腎臓そのものだけでなく腎周囲にも注目することも大事ですね.今回の症例でもよく観察すると腎筋膜の肥厚や右腎周囲腔の脂肪層に乱れ(濃度上昇)があるようにみえますね(図1,2:).

研修医:腎筋膜,腎周囲腔…? 聞いたことはありますが,よくわかりません.

指導医:それでは解剖の確認をしようね.

ワンポイント

図3に示すごとく後腹膜は腎筋膜(Gerota筋膜)と外側円錐筋膜により,(1) 前傍腎腔(青色),(2) 腎周囲腔(黄色),および,(3) 後傍腎腔(赤色)の3腔に区分される.

  1. 前傍腎腔:腹膜,腎筋膜前葉,外側円錐筋膜に囲まれる区画で膵,十二指腸,上行および下行結腸を含む.
  2. 腎周囲腔:前葉と後葉の腎筋膜に囲まれる区画で,腎および副腎を含む.また,腎周囲腔は図4に示すごとく隔壁により多数の隔室に分かれている.この隔壁はbridging septumと呼ばれ,A.腎被膜と平行に走行するもの(図4A),B.腎被膜と腎筋膜とを連絡するもの(図4B),C.腎筋膜の前後葉を連絡するもの(図4C)の3種類がある6)
  3. 後傍腎腔:腎筋膜後葉と体壁(腹横筋,大腰筋など)の筋膜の間の区画で特定の臓器は含まれず,前方では腹膜前脂肪層へと連続する.
  • 図3 腎周囲腔と後腹膜の構造 横断像

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  • 図4 腎周囲腔内の構造

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研修医:解剖はわかりましたが,腎筋膜の肥厚や脂肪層の乱れにはどういった病的意義があるのですか?

指導医:腎筋膜やbridging septumの肥厚,あるいは腎周囲腔内の脂肪層の乱れは,実は炎症(腎炎や腎膿瘍のみならず腎外からの炎症波及も含む),腎周囲血腫,腎梗塞,腎腫瘍などさまざまな病態で認められる所見なんだ6).非特異的ではあるけど感度が高くて単純CTでも検出できるので,腎やその周囲に何か異常がないか疑うきっかけになるね.ただし,健常者でも腎筋膜やbridging septumが目立つ人もいるので,左右差や臨床症状にも留意しようね.

若手放射線科医:それでは,症例2でこれらの所見を確認してみましょう.

症例2 43歳男性.背部痛を主訴に来院.血液検査で急性膵炎が疑われ,CTが撮影された

研修医:図5,6にて前傍腎腔の浸出液貯留(),腎筋膜前葉の肥厚(),bridging septumの肥厚(),および腎周囲腔の脂肪層の乱れ()があります.これらは急性膵炎の炎症性変化が波及した所見と思われます.

若手放射線科医:その通りですね.また,腎筋膜前葉が膵炎という前傍腎腔の炎症を腎周囲腔へ波及するのを阻止しているのもわかりますね.腎筋膜は強固なので,前・後傍腎腔と腎周囲腔間の病変の進展を防ぐ役割を果たすのですね.

指導医:それでは,最後の症例を検討しよう.一見すると症例1に似ているけれど,所見はどうかな?

症例3 81歳女性.数日前から持続する左側腹部痛.尿,血液検査では原因を特定できず,精査目的にCTが撮影された

研修医:先程の症例1と比較してやや造影不良の範囲が広いのが気になりますが(図7,8),左腎のAFBN,もしくは膿瘍ではないでしょうか.

指導医:それらの疾患も鑑別にはあがるのだけど,本症例では左腎の被膜に沿って帯状の造影効果が認められる点に注目しよう(図8:).これは“cortical rim sign”といって,腎梗塞に比較的特徴的な所見なのだよ.

ワンポイント cortical rim sign

皮質が被膜に沿って帯状に造影効果を保つ所見で,被膜動脈,腎盂,尿管動脈などからの側副路により被膜~被膜下に血液が供給されるためと考えられている7).腎梗塞の約50%に出現し特徴的とされているが,腎梗塞以外に急性皮質壊死,急性尿細管壊死,腎静脈血栓,腎膿瘍などで認められることもある8).また,その出現には腎梗塞発症から最低8時間を必要とするが,1週間以降では全例に認められるとの報告もある9)

研修医:なるほど,“造影不良域=炎症”とは限らないのですね.また,腎梗塞の診断は単純CTだけでは困難であり,造影CTが必要なのですね.

指導医:その通りだね.腎梗塞のリスクファクターとしては,塞栓(心疾患,カテーテル検査,手術),外傷,敗血症,血管炎,血栓などが知られているけれど,健常者に突然生じることもあるので,基礎疾患がないからといって除外はできないね.また,臨床像としては腹痛,悪心,発熱,血清酵素(LDHやトランスアミナーゼ)の上昇などを呈することも知られているのだけれど,どれも非特異的で決め手に欠けるため,原因不明の発熱や腹痛としてCTが撮影される機会も多いんだ.だから画像所見に精通して,尿路感染症との鑑別も含めて,しっかりと診断できるようにしようね.

文献

  1. Lawson, G. R., et al. : Acute focal bacterial nephritis. Arch Dis Child, 60 : 475-477, 1985
  2. Huang, J. J., et al. : Acute bacterial nephritis : a clinicoradiological correlation based on computed tomography. Am J Med, 93 : 289-293, 1992
  3. 「ここまでわかる急性腹症のCT 第2版」(荒木 力 著),pp.314-319,メディカル・サイエンス・インターナショナル,2009
  4. Love, L., et al. : Computed tomography of extraperitoneal spaces. AJR, 136 : 781-789, 1981
  5. 「腹部CT診断120ステップ」(荒木 力 著),pp.256-259,中外医学社,2002
  6. Kunin, M. : Bridging septa of the perinephric space : anatomic, pathologic, and diagnostic considerations. Radiology, 158 : 361-365, 1986
  7. Han, L. E., et al. : Renal subcapsular rim sign : new etiologies and pathogenesis. AJR, 138 : 51-54, 1982
  8. Wong, W. S., et al. : Renal infarction : CT diagnosis and correlation between CT findings and etiologies. Radiology, 150 : 201-205, 1984
  9. Kamel, I. R., et al. : Assessment of the cortical rim sign in posttraumatic renal infarction. J Comput Assist Tomogr, 20 : 803-806, 1996

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扇 和之/編 堀田昌利,土井下怜/著

プロフィール ※2012年4月時点

堀田 昌利(Masatoshi Hotta)
日本赤十字社医療センター 放射線科 後期研修医
初期研修中には全く画像がわからず,放射線科の先生に何度も助けられたのを覚えています.逆の立場になった今,少しでも頼られる放射線科医になれるよう日々頑張っています.
扇 和之(Kazuyuki Ohgi)
日本赤十字社医療センター 放射線科
早いもので放射線科医になって27年めに入りました.毎日,研修医の先生と一緒にワンポイントレッスンなどをやりながら,楽しい時間を過ごしています.
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