昨年の夏は異常に暑く,熱中症の患者さんが続出しました.今年の夏も猛暑になると予想されていますので,また忙しくなりそうですね.
以前,40℃を超える部屋の中で作業をされていた方が熱中症となり,意識がなく,血圧も低い状態で搬送されてきました.輸液をして事なきを得ましたが,この方は後天性全身性無汗症であり,汗腺の機能異常があるため体温調節ができず容易に熱中症になることが後でわかりました.ご存知のように,汗は体温調節に大変重要ですが,後天性全身性無汗症のメカニズムはまだよくわかっていません.全身性ステロイド投与によって軽快することが知られているため,アセチルコリン受容体に対する自己免疫疾患の可能性,あるいは細胞膜に存在していて細胞の水を出し入れする「アクアポリン」というタンパク質に異常がある,という説もあります1).
この無汗症が抗てんかん薬を飲まれている患者さんに起きることがあり,特に夏場は注意が必要です.抗てんかん薬の副作用といえば眠気やふらつきが一般的ですが,ゾニサミド(エクセグラン®)とトピラマート(トピナ®)は発汗減少という珍しい副作用が報告されています.ゾニサミドによる発汗減少の作用機序は詳しく解明されていませんが,何らかのメカニズムで汗腺の発汗機能が抑制されることが提唱されています.一方で,トピラマートの発汗減少のメカニズムは明らかにされていて,汗腺における炭酸脱水酵素の阻害作用により汗の生成が阻害されていると考えられています2,3).これらの副作用は,小児の方が成人よりも生じやすいとされており,元気な子どもには特に注意が必要です.
ちなみに,防寒着のセーターのスペルは「sweater」ですが,1891年にアイビー・リーグのフットボール選手がトレーニングをする際に,汗をかいて減量するために着用するようになったことがはじまりのようで,「汗(sweat)をかくもの」を意味する「sweater(スウェター)」に由来するそうです.