色々なところで心肺蘇生を教えていると,「もし自分が倒れても知らない人に人工呼吸されたくない」という方がときどきいます.JRC心肺蘇生ガイドライン2020では新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために「蘇生を行う際,無理に人工呼吸をしなくてもよい」と改訂され,「技術と意思があれば人工呼吸をしてもよい」とされました.これによって人工呼吸は必須ではなくなり,心肺蘇生に対する敷居が少しだけ低くなったと思いますが,それでも非医療従事者の方に心肺蘇生を抵抗なく実行してもらうのはまだまだ難しいと感じています.
一方で,小児の心停止は呼吸不全が原因であることが多いため,小児の蘇生のときには人工呼吸を行うことが望ましいとされています.最近,当科の小原先生と内藤先生のチームが,成人で推奨されている「人工呼吸はしなくてもよい」という蘇生法の定着によって子どもに不利益が生じていることを示しました1).7,162件の小児心停止症例を調べた結果,人工呼吸が実施された割合がコロナ前は33.0%でしたが,コロナ禍では21.1%に減少していました.人工呼吸をしないことにより30日後の予後は有意に悪くなっており,年間で10.7人の小児の命が人工呼吸をしないことで失われていることが示されました.
最近の研究で,マウスでも意識がない仲間に対し,口腔内異物除去をしたり,舌を引っ張り出して気道確保をするような動きをして,仲間を蘇生させることが示されています2).マウスが心肺蘇生講習を受けたはずはないので,これは本能的に備わった行動であり,背景には脳内のオキシトシン放出ニューロンが重要な役割を果たしていると考えられています.われわれ人間もマウスに負けないようにしないといけませんね.
ちなみに,空気中の酸素の濃度は約21%ですが,呼気(吐く息)にも16〜18%程度の酸素が含まれますので,マウス・ツー・マウスでも呼吸に十分な酸素を送り込むことができます.