先日,陰茎の包皮がズボンのファスナーにはさまって泣き叫ぶ小児患者さんが救急車で搬送されてきました.痛くて触らせてくれませんでしたが,落ち着かせて局所麻酔を行い,ゆっくり引っ張って無事に解放することができました.私も数回経験がありますが,特に急いでいるときに起きやすく,この痛みは経験しないとわからないものです.
ファスナーによる陰茎外傷は驚くほど多く研究がされており,意外にこの分野や深いと再認識します.全米傷害調査電子システム(National Electronic Injury Surveillance System)に登録されているデータの解析によると,2002年から2010年までに17,616人がファスナーによる陰茎外傷で救急外来を受診しており,これはすべての陰茎外傷の約21.6%になります1).年齢別では,18歳未満が9,054人,18歳以上が8,562人でした.蜂窩織炎や膿瘍など感染性の合併症をきたした例は11例あり,女性は当然ながら解剖学的構造上少なく,わずか5例が報告されているにすぎません.意外にも,陰嚢がはさまることは1%以下であったそうです.このほかにも類似の報告は多く2),成人・小児のいずれにおいてもファスナーは陰茎外傷の重要な原因であり,予防策としてはボタンやマジックテープのズボンを着用し,用を足すときは隣の人に気をとられないこと,お酒に酔ったときに注意すべき,という考察がなされています.
昨年の救急医学の専門誌にも,医療用の骨切り器具を使った新しい緊急ジッパー解放技術と既存の技術をシミュレーション環境で比較した論文が掲載されていました3).このほかにも,ファスナーの構造を詳しく解説し,ファスナーに油をさしたり,ペンチでファスナーを切ったりといった陰茎をいかにして解放するかを記載した論文はいろいろあります.救急医はこんなことまで知っておかないといけないのか,と思いますが,ほっとして気が緩むと誰もがついついやってしまう失敗です.これらの論文を書いた先生たちの情熱をかんがみると,もしかしたら,さぞかし痛い思いをされたことがあるのかもしれません.