神戸市では「毎日登山」という習慣があり,朝から地域の高齢者がラジオ体操をして山登りをされています.皆さんお元気で,この習慣はさぞかし健康にいいと思われますが,実は朝の運動の是非には議論があります.早朝の運動では,心拍数や血圧の反応がほかの時間帯より大きく,心血管負荷が増す可能性が示唆されています.これはいわゆる「モーニングサージ」と呼ばれる,朝の起床前後に血圧が急激に上昇する現象のことで,これが脳卒中や心筋梗塞のリスクを高め,心血管イベントの増加要因となることが知られています1).このような理由から,運動は朝より夕方に行ったほうがよい,という説があります.実際に,治療中の高齢の高血圧患者において,朝(7〜10時)と夕方(17〜20時)の2群にランダムに分けて,1回45分間の中程度強度の有酸素運動を10週間にわたって週3回実施したところ,夕方に有酸素運動を行うと平均血圧の低下,交感神経活動の抑制がみられましたが,朝の運動ではみられませんでした2).
一方で,オランダで86,657人を対象とした大規模コホート研究によると,朝(特に8〜11時)に身体活動を行った人は,ほかの時間帯よりも心血管疾患(冠動脈疾患,脳卒中)の発症リスクが最も低かったと報告されています.特に女性では,冠動脈疾患や脳卒中のリスクの低下が顕著でした3).このように,朝に激しい運動をすることが危険かどうかは一定の見解は得られていませんが,リスクがある高齢者は無理をしないことが大切でしょう.
ラジオ体操自体の効果に関する研究もいくつか行われていて,フレイルがある高齢者に毎日ラジオ体操をしてもらうことで,俊敏な動きとバランス,持久力が有意に改善したと報告されています4).この研究では,インストラクターが自宅に訪問し,厳しく指導しながらラジオ体操が行われたそうですが,実際にジャンプや回旋を含むラジオ体操を真面目にやるとかなり疲れますし,相当な運動量ですよね.現在のラジオ体操が開始されたのは1951年のことで,当時の平均寿命は60歳代であり,そもそもラジオ体操は平均寿命が80歳代である今の高齢者が毎日行う前提ではつくられていないのです.
ちなみに,ラジオから流れてくる音楽にのって,国民が一斉に同じ動きをする風景を見てGHQが全体主義を恐れ,ラジオ体操が中止になったことがあるそうです.