救命救急センターに搬送されてくる重症の患者さんの家族や友人は,回復を一生懸命祈っておられることでしょう.これまで「祈り」が患者さんの予後にどのようにかかわるのか,多くの研究が真面目に行われてきました.自ら毎日祈り,教会に通う人は,高齢になっても血圧が安定し,うつ病の症状が落ち着くことがわかっています1).宗教を信仰している人は自己管理能力が高そうですし,祈りに不安や恐怖を和らげる効果があることもなんとなく理解できます.では,「遠隔地からの第三者の祈り」には効果があるのでしょうか.いくつか研究報告を紹介します.
米国のサンフランシスコ総合病院で,循環器集中治療室(CCU)に入院した393人を通常の治療に加え,祈りを受ける群192人と受けない群201人にランダムに分けています.医師も看護師も患者も,誰が祈りを受けているかは知らされず,病院の外から数人のキリスト教徒が患者のファーストネームと診断名,病状についての情報をもとに一生懸命に祈りました.なお,患者と祈祷者の宗派は必ずしも一致しません.10カ月経過観察をした結果,祈りを受けた群では利尿薬や抗菌薬の使用頻度が少なく,心停止や人工呼吸器装着の比率も有意に少ないことがわかりました2).この研究は注目されましたが,祈りを受けない群の患者も,この研究に無関係な人から祈りを受けていた可能性があります.
そこで,この研究成果が再現できるかをカンザスシティにあるCCUで再検証されました.524人の通常治療群と,466人の通常治療+祈りを受ける群で比較しています.祈祷チームが4週間の間,毎日祈りをささげたところ,両群の患者背景や入院期間に差がないにもかかわらず,病状を詳細にスコア化してみると,祈りを受けた患者は重篤な合併症の発生頻度が有意に低いことがわかりました.この研究成果は,米国医師会が発行する権威ある雑誌に掲載されており,決していい加減な研究ではないのです3).
事実,脳波や機能的MRIを使って,隔離された2人の間で脳活動が同期発生することが示されています4).これは一種のテレパシーのような現象ともいえますが,現時点では科学的メカニズムはわかっておらず,非科学的だと否定する人もいるでしょう.
しかし,祈りに一定の効果が示されたことに,私は少し心がほっこりしました.打算的に「祈りに効果がないなら祈らない」という人はいないでしょうし,おそらく祈りは医学より前から存在していたものです.私はスピリチュアルな考えはもち合わせていませんが,祈りは人間の本能であり,ケアと癒しにつながるはずです.将来そのメカニズムが判明するのかもしれませんが,祈りの研究はそっとしておいてほしいな,と思うのです.