発生生物若手の会は,2025年に開催された日本発生生物学会・日本細胞生物学会合同大会に向けて2024年から若手中心で始動した会である.とはいえ,その発足は実に受動的なものであった.
私が2024年の発生生物学会で学会場を“散歩”していると,突然先生方に囲まれて「発生生物若手の会をつくってもらえないか」と依頼された.2025年に開催される日本発生生物学会・日本細胞生物学会合同大会に向けて,細胞生物学会側にすでに存在する細胞生物若手の会との合同企画を実現するため,発生生物側にも若手の会を新設してほしいということであった.私は以前に細胞生物若手の会の広報を担当していたため,細胞生物若手の会側とのコミュニケーションが円滑に進むと期待されたようだ.断る理由もなく快諾し,その晩,鴨川沿いの薄暗い飲み屋で同世代の友人らとともに発生生物若手の会を発足した.
その場のノリで設立した会だからこそ,なるべく“意識の高い”場にはせず,誰もが気軽にサイエンスを愉しめる場にしたいという願いのもと,本会を「発生生物学に興味を持つ若手研究者のコネクション形成の場」として定義した.発生生物学会への入会は義務付けず,発生生物学に興味のある学部生から独立直前の研究者まで,幅広い若手研究者を歓迎している.この理念に共感していただいた結果,現在ではマウス,ショウジョウバエ,カイメン,線虫,培養細胞,ヒト,クラゲ,プラナリア,ニワトリ,ツメガエル,ゼブラフィッシュ,ゼニゴケ,サンゴなど,実に多様な生物を専門とする研究者が集まっている.
普段はSlack上で交流し,いつでも誰とでも議論や相談,論文情報の共有ができる環境を整えている.月に1回のオンライン勉強会では,研究紹介・分野紹介・論文輪読会・技術相談など,発表者が話したいテーマについて自由に発表し,活発な議論を展開している.時には2〜3時間にわたって熱のこもった議論が続くこともある.実験に忙殺されがちな日々のなかで,他分野の研究と出会えるこの勉強会は,研究者の知識欲を気軽に満たす貴重な機会となっている.最近では熊本大学発生医学研究所と基礎生物学研究所との合同輪読会にも参加をはじめ,メンバーがより深く幅広い知識やネットワークを獲得できる場も提供している.
他の若手の会と一線を画すのは,メンバーの多様性だけでなく運営方針にもある.「自分のエゴに素直になって当会を利用してほしい」という思いから,運営には所属メンバー全員がかかわることができる.実際,メンバーの自主企画により分子生物学会での懇親会や,古典名著論文の輪読会などが開催された.研究にコラボレーションが不可欠となりつつある昨今,発生生物若手の会が学術変革領域研究(B)などの大きなコラボレーションが生まれる土壌になることを期待している.
当初は2025年7月の発生・細胞生物若手の会の合同企画のために設立された会だったが,その企画が終了した今こそが本格始動の時である.2025年10月現在,参加メンバーは80人を超え,発生生物学に興味のある研究者がとりあえず所属しておけば,知りたい情報や研究者に出会える基盤を確立できた.今後はより魅力的な企画や対面でのコミュニケーション機会を通じて,メンバーが思わず議論に参加したくなるような運営を心がけていく.まだまだ駆け出しのコミュニティではあるが,メンバー全員でサイエンスを愉しめる魅力的な場所へと育てていきたい.


