腫瘍内科学教室に所属していた頃から学生の指導には慣れていたものの,いざ自分の研究室を立ち上げてみると,当たり前だと思っていたことが必ずしも通じない場面がたびたびあった.どこまでが文化の違いで,どこからが個人の性格なのか,最初のうちは判断がつかない.時間に厳しいメンバーもいれば,そうでない者もいる.1日5回の祈りを欠かさない人もいれば,食事の制限をもつ人もいる.それぞれの生活と信念を尊重しながら研究を進めるには,柔軟さと理解が欠かせない.
英語を公用語とし,週ごとのラボミーティングでは互いの意見を交わしながら議論を重ねてきた.言葉の壁よりも,「当たり前」の基準が異なることの方が大きな障壁になるときもある.それでも,異なる文化をもつメンバー同士が1つの目的に向かって進むとき,研究の議論が思いがけず新しい視点をもたらしてくれる.3年間の米国での研究生活で学んだ「異なる価値観とともに働く感覚」が,今まさに生きていると感じている.
暗黙の了解では成り立たないことが多く,研究の手順やルールはすべて英語で明文化し共有するようにした.文化や習慣が異なる環境では,言葉にしなければ伝わらないことが多い.信頼関係の築き方も,日本で一般的な「飲み会で打ち解ける」といった方法は通用しない.
その代わりに,日々の小さなコミュニケーションを大切にし,ラボミーティングの後には,ときどきケーキや飲み物を囲んでゆったりと語り合う時間を設けた.短いひとときではあるが,研究の話題から離れて互いの文化や日常のことを話すことで,距離が少しずつ近づいていくのを感じた.
ラボミーティングでは,できるだけ全員が何かしらコメントをするよう促し,発言しやすい雰囲気づくりを心がけている.オープンな議論の場を維持することが,異なる文化的背景をもつメンバーの視点を引き出すきっかけにもなっている.
異なる文化や背景をもつ人々が集まることで,思いがけない発想や新しい解釈が生まれる.共通言語としての英語は,互いを理解し包摂するための基盤となり,研究だけでなく人間関係のあり方にも影響を与えている.
最後に,当研究室のメンバーが寄せてくれた言葉を紹介したい.
「多様な背景があるからこそ,課題解決が早くなり,より協力的な雰囲気が生まれる」
「文化や人生経験が異なることで,互いへの関心が自然に生まれ,尊敬と理解が深まる」
「それぞれの文化や社会を語り合う時間が,研究室を温かく開かれた場所にしている」
「違いに戸惑うこともあるが,支え合い笑い合える温かさが特別な環境をつくっている」
国や文化を超えて同じ科学への情熱を共有できること——その実感こそが,私にとって最大の喜びであり,研究の未来をともに築く力になると感じている.


