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固形がんに対する免疫細胞療法の最前線

Frontiers in adoptive cell therapy for solid tumors
10.18958/7863-00001-0006238-00
籠谷勇紀
Yuki Kagoya:慶應義塾大学医学部先端医科学研究所がん免疫研究部門

難治がんに対する免疫細胞療法として,キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法は造血器腫瘍に対して着実に臨床実績を積み上げている一方,固形がんにおいては従来効果が得られないとされてきた.しかし近年では改良型のCAR-T細胞療法の臨床試験結果が続々と発表されており,開発が加速度的に進んでいる.また免疫細胞療法の元祖である腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法,さらにT細胞受容体(TCR)を遺伝子導入するTCR-T細胞療法もごく最近,海外では薬剤としての承認が得られた.また汎用性を高める目的でiPS細胞をソースとして用いる方法や,NK細胞などの他の免疫細胞を活用する方法も開発が進んでおり,本特集でこれらの動向を解説するにあたり,本稿では全体像を概観する.

はじめに

免疫細胞療法とは免疫細胞を使う治療法の総称であるが,多くの場合,これは体外で培養・遺伝子改変などを行った免疫細胞を患者に戻す治療法である養子免疫療法(adoptive cell therapy)を念頭においている(概念図).同治療法はさらに,腫瘍組織から単離したT細胞を体外で増幅して投与する腫瘍浸潤リンパ球(tumor-infiltrating lymphocyte:TIL)療法と,T細胞や他の免疫細胞に特定のがん抗原を認識する受容体遺伝子を導入して,標的特異性を付与したうえで,治療に用いる遺伝子改変細胞(genetically engineered cell)療法(図1)に大別することができる.後者は一般的にはアクセスが容易な患者自身の末梢血免疫細胞を改変に用いることが多いが,個々の患者由来の細胞をソースとするために薬剤としての大量生産は難しく,治療効果がばらつく原因ともなる.そこで健常人由来末梢血,臍帯血細胞,さらには人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPSC)を活用した治療法も開発が進んでいる(図2).

概念図 養子免疫療法の概念図
養子免疫療法は,腫瘍組織に浸潤する腫瘍反応性T細胞を活用する方法すなわち腫瘍浸潤T細胞(TIL)療法と,末梢血T細胞などに腫瘍抗原特異的なTCRまたはCAR遺伝子を導入して治療に用いる遺伝子改変細胞療法に大別される.
図1 遺伝子改変細胞療法の概要
免疫細胞の遺伝子改変には多くの場合ウイルスベクターが用いられ,ゲノムに恒常的に組み込むことで安定的に遺伝子を発現する.さらにT細胞の機能を高めるための付加的な遺伝子改変を組み込むこともできる.図中では人工の抗原受容体であるCARの基本構造についても説明している.P2A:リボソームスキッピングを介して前後のペプチド鎖を切り離すことで,単一のmRNAから複数のタンパク質を翻訳させる効果をもつ配列.
図2 他家由来細胞の活用
自家免疫細胞を用いる方法が確立されているが,個別に細胞製造を行う必要があることから汎用性という点で弱みがある.健常人由来のT細胞や,臍帯血細胞,多能性幹細胞など,さまざまな細胞ソースを活用することで,抗腫瘍T細胞,NK細胞を大量製造することができれば治療効果の安定化,治療コストの低減につながるが,アロ免疫反応を確実に制御する方法を確立することが求められる.

免疫細胞療法の概念は従来TIL療法から始まったが,その後,遺伝子改変T細胞の開発が進んだ.特にキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)という,がん抗原を認識するために抗体の可変領域を一本鎖につないだ細胞外ドメインと,T細胞に活性化シグナルを伝達する細胞内ドメインから構成される人工受容体を搭載したCAR-T細胞による治療が再発・難治性のB細胞性腫瘍に著効したことから,一気に実臨床への導入に至った1).CAR-T細胞療法はその後,BCMAを標的とすることで多発性骨髄腫に対しても客観的な臨床効果が確認され,その他の幅広いがんについても従来の治療戦略を一変させることが期待されてきた.しかし前述以外のがん種,特に組織に腫瘍塊を形成する固形がんにおいては顕著な効果は得られず,臨床応用という点では足踏みが続いていた.

一方,悪性黒色腫に対して始まったTIL療法の位置付けは,その後CTLA-4およびPD-1/PD-L1に対する免疫チェックポイント阻害剤治療の標準治療としての台頭により難しい局面に入ったが,近年の臨床試験では同治療法に不応または再燃した症例に対して30%程度の奏効率が認められたことから,米国FDAの承認が2024年に得られた2).また欧州ではオランダを中心に進行期悪性黒色腫に対してイピリムマブ(抗CTLA-4抗体)とTILのランダム化比較試験が行われ,TIL療法の優位性が示された3)

TCR-T細胞療法は,CARと異なりHLAとその溝にはまったペプチドをセットで認識することから,すべての患者に適用できるわけではないが(HLA拘束性),例えばHLA-A2のように頻度の高いサブタイプでは,ある程度汎用性のある治療法となりうる.HLA-A2/MAGE-A4を標的とした滑膜肉腫に対する臨床試験結果を受けて,2024年にFDAの承認が得られている 4)

固形がんに対するCAR-T細胞・TCR-T細胞療法

前述のように固形がんに対しては芳しい治療効果が得られていなかったCAR-T細胞療法では,T細胞の機能改良研究が進んだ.機能改変で着目する要素として,第一にサイトカインシグナルがあげられる.T細胞が最適な活性化を受けるうえでは,TCRを介する刺激(シグナル1),共刺激(シグナル2),サイトカインによる刺激(シグナル3)が必要である5).現在臨床で用いられているいわゆる第2世代CARにはシグナル1としてCD3ζ,シグナル2としてCD28や4-1BBなどの細胞内ドメインが搭載されているが,サイトカインシグナルを誘導する機構はない.通常,サイトカインは抗原提示細胞やヘルパーT細胞などから供給されるが,人工的に準備した抗腫瘍T細胞を大量に輸注する免疫細胞療法では,供給が不十分になりやすい.従来,共通γ鎖受容体を用いるサイトカイン群であるIL-2,IL-7,IL-15などが着目されてきたが,それ以外にもさまざまなサイトカインシグナルの寄与がわかってきている6).また,サイトカイン以外にケモカインを誘導することで体内の抗腫瘍T細胞も攻撃にまきこむ戦略も提唱されており,安達・玉田の稿で解説する.

次に,T細胞の疲弊や終末分化などの機能低下に対応するための転写制御因子やエピジェネティック因子の修飾も重要な戦略である.改変にあたっては,腫瘍組織中の慢性的な抗原刺激に曝露される環境でT細胞に生じる遺伝子発現・エピゲノムプロファイルを解明し,機能低下にかかわる具体的な遺伝子,シグナル経路を知ることが必要である.近年のシングルセルレベルでの解析に伴い,分子レベルでの機能低下メカニズムの理解が進んでいる.

CAR-T細胞療法に先んじて,米国では滑膜肉腫に対するTCR-T細胞療法の承認が近年得られた.また,日本においても滑膜肉腫に対するNY-ESO-1特異的TCR-T細胞療法などで有望な結果が得られており7),承認取得に向けた準備が進んでいる.TCR-T細胞療法の開発動向,治療効果や安全性については,岡本の稿で解説する.

CARはTCRのシグナル伝達機構を再現するよう開発された受容体であるが,TCRとでは抗原認識後の応答パターンが異なることがわかってきた.このことを利用した治療効果,安全性向上のための開発も可能性があり,近藤の稿で解説する.

TIL解析の進展と治療への応用

前述のTCR-T細胞療法では,従来MAGE-A4やNY-ESO-1といった,がん細胞では高発現するが正常組織では精巣などの生殖細胞に発現が限局する「がん精巣抗原」が主要な標的であった.その後,シークエンス技術の進展でがん細胞が獲得する遺伝子変異により新たに生じる変異ペプチド,すなわちネオ抗原を探索することが可能となり,症例固有の標的抗原を治療標的にすることが期待されている.TILは腫瘍反応性のTCRを有するT細胞の宝庫であることから,TILの解析を通じてネオ抗原に反応するTCRを効率的に同定できれば,TILそのものを治療に用いるだけでなく,同検体から単離したTCRを搭載するTCR-T細胞療法にも応用できる.

しかしネオ抗原候補,または腫瘍反応性T細胞クローンの一方を同定できた場合でも,抗原とTCR配列の対応関係を同定することは容易ではない.近年では,TILの遺伝子発現プロファイルとTCR配列をシングルセルレベルで同時に解析できることから,遺伝子発現パターンから腫瘍に反応すると思われるTCR配列情報を大規模に取得することができる.こうした大規模データをもとにした機械学習などにより,腫瘍反応性のTCRを高い精度で予測するアルゴリズム開発研究も急速に進んでいる8).将来的に遺伝子変異プロファイルからネオ抗原特異的なTCRのアミノ酸配列を設計できるようになれば,完全な個別化TCR-T細胞療法に応用することができる9).TILの機能解析を通じた,機能低下メカニズムの同定に迫る研究については,村田らの稿で解説する.

CAR-NK細胞の開発

NK細胞は強い細胞傷害活性をもつ自然免疫系の細胞であるが,T細胞と同様に,CAR遺伝子を搭載することで抗原特異性を付与することができる(CAR-NK細胞).NK細胞はT細胞に比べてもともと短命であるため,細胞療法の特長である持続的な効果を誘導できるか懸念されていたが,近年行われた臨床試験では,臍帯血由来のNK細胞から作製したCD19に対するCAR-NK細胞を移植することで有望な治療効果が示されている10).CAR-T細胞のような抗原曝露後の爆発的な増殖がないためと考えられるが,重篤なサイトカイン放出症候群や神経障害などの毒性がみられなかった点も特筆すべき点である.

前述のCAR-NK細胞にはIL-15遺伝子が搭載されており,長期生存能の亢進に大きく寄与しているが,NK細胞療法を考えるうえで重要な概念としてmemory-like NK細胞があげられる11).従来の理解に反して,NK細胞は以前に曝露された抗原に対してメモリー応答を誘導できることがマウスモデルを用いた研究で示されており,ヒトNK細胞においても特定のサイトカインの組み合わせにより類似した形質を獲得させることができる.メモリーT細胞のように,メモリー形成にかかわる転写制御機構の詳細な解明が今後期待される.NK細胞の基礎的プロファイルとその応用性については,鍋倉の稿で詳しく解説する.

細胞療法の汎用化をめざした研究開発

自家T細胞は最も確実な細胞製剤のソースであるが,個別に採取・準備を行う必要があることから汎用性が得られにくい.今後他のがん種にも適用が広がってくる場合,製造の効率化・均質化は現実的な問題である.通常,遺伝子改変T細胞の培養・増殖期間は10日間程度であるが,最小限の培養期間(1〜2日)とすることで輸注細胞数を少なくしてもin vivoで高い増殖能・抗腫瘍効果が得られることが確認され,臨床試験が進行している12)

製造の効率化・均質化の観点から,健常人由来のT細胞を活用してCAR-T細胞製剤を大量製造する,いわゆるuniversal CAR-T細胞も着目されているが,他家T細胞を用いることからアロ免疫反応(同種他個体に対する免疫反応)の制御が必要である(図2).TCRのノックアウトにより攻撃側のアロ免疫反応(graft-versus-host disease:GVHD)を抑えることは容易であるが,レシピエント側からの(host-versus-graft:HVG)反応については,T細胞による認識を抑制するためにHLAをノックアウトすると,NK細胞からの攻撃を受けやすくなってしまうことから,より複雑な改変が必要となる13).アロT細胞のソースとしては,iPS技術を活用する方法も着目されている.iPS細胞に一度戻すことで細胞を安定供給するストックとすることができ,アロ免疫反応を抑えるためのさまざまな遺伝子改変を準備することもできる.これらの技術開発については,石井・安藤の稿で解説する.

一方,他家由来T細胞の利用は単に治療コストを下げるということだけでなく,治療効果の観点においても重要である.T細胞は培養・増殖の過程で終末分化が進行し,長期生存能を喪失する.したがって腫瘍反応性の高いT細胞クローンを同定できた場合も,同クローンをin vitroで長時間をかけて増やして,治療に用いるということは通常できない.そこでT細胞の転写プロファイルを改変して若返らせる方法が試みられている(図3).われわれは転写制御因子PRDM1をCRISPR/Cas9でノックアウトすることで,TIL由来の終末分化T細胞が未分化メモリーT細胞のプロファイルを再獲得することを報告しているが,完全なメモリーT細胞への若返りにはより複数の遺伝子改変が必要であると考えられる14).T細胞を一度iPS細胞の状態に戻してから,再びT細胞に分化させる場合においては,未分化メモリー形質を再獲得したT細胞を得ることができると考えられており,持続的な治療効果につながることが期待されている15)

図3 T細胞の機能低下とそのメカニズムに基づく改良
メモリーT細胞は分化階層構造を有し,最も長期生存能に優れる幹細胞メモリーから,増殖の過程で終末分化エフェクターへと分化が進む.また,持続的な抗原刺激を受けた場合は疲弊状態に陥り,エフェクタ―機能が低下する.これらの機能低下にかかわる転写制御機構を理解することで,未分化メモリーの状態に戻すリプログラミング技術が研究されているが,もう1つのアプローチとしてiPS細胞の状態に戻してから,T細胞に再分化させる方法もある.

おわりに

以上のように,さまざまな開発の進展により従来根治が難しいとされてきた再発・難治性の固形がんに対する免疫細胞療法の開発が急速に進んでいる.本領域は技術革新が加速しており,数年後にはさらに違う展開が見えて,本記載が古くなっていることだろう.この後の各論でそれぞれの開発動向をつかんでいただき,さらに興味をもたれた場合はぜひ参考文献にあげられている原著論文を参照されたい.

文献

1) Maude SL, et al:N Engl J Med, 378:439-448, doi:10.1056/NEJMoa1709866(2018)

2) Chesney J, et al:J Immunother Cancer, 10:e005755, doi:10.1136/jitc-2022-005755(2022)

3) Rohaan MW, et al:N Engl J Med, 387:2113-2125, doi:10.1056/NEJMoa2210233(2022)

4) D’Angelo SP, et al:Lancet, 403:1460-1471, doi:10.1016/S0140-6736(24)00319-2(2024)

5) Kershaw MH, et al:Nat Rev Cancer, 13:525-541, doi:10.1038/nrc3565(2013)

6) Kagoya Y:Int Immunol, 36:49-56, doi:10.1093/intimm/dxad033(2024)

7) Ishihara M, et al:J Immunother Cancer, 10:e003811, doi:10.1136/jitc-2021-003811(2022)

8) Tan CL, et al:Nat Biotechnol, 43:134-142, doi:10.1038/s41587-024-02161-y(2025)

9) Gao Y, et al:Cell Syst, 16:101403, doi:10.1016/j.cels.2025.101403(2025)

10) Marin D, et al:Nat Med, 30:772-784, doi:10.1038/s41591-023-02785-8(2024)

11) Foltz JA, et al:Sci Immunol, 9:eadk4893, doi:10.1126/sciimmunol.adk4893(2024)

12) Dickinson MJ, et al:Cancer Discov, 13:1982-1997, doi:10.1158/2159-8290.CD-22-1276(2023)

13) Kagoya Y, et al:Cancer Immunol Res, 8:926-936, doi:10.1158/2326-6066.CIR-18-0508(2020)

14) Yoshikawa T, et al:Blood, 139:2156-2172, doi:10.1182/blood.2021012714(2022)

15) Iriguchi S, et al:Nat Commun, 12:430, doi:10.1038/s41467-020-20658-3(2021)

籠谷勇紀:東京大学大学院医学系研究科修了後,Princess Margaret Cancer Centre(トロント)でポスドクとして,T細胞の転写ネットワーク,エピゲノム機構の人工的な制御を通じてがん免疫療法の持続的な効果を高めるための研究に従事.帰国後,愛知県がんセンターを経て2023年より現職(慶應義塾大学医学部先端医科学研究所がん免疫研究部門)にて,がん免疫療法,とりわけCAR-T細胞や腫瘍浸潤T細胞を中心とする免疫細胞療法の基礎,臨床橋渡し研究に従事している.