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序文:研究費獲得はキャリアを拓く―若手研究者が知っておきたい戦略と考え方

Winning research funding, opening career paths: Strategies and perspectives for early-career researchers
10.18958/7967-00001-0006543-00
児島将康
Masayasu Kojima:ジーラント株式会社/久留米大学

研究者にとって,研究費の獲得はキャリアの各段階において常につきまとう課題である.博士課程から独立前,独立直後,研究室の安定期,そしてキャリアの後期に至るまで,それぞれのステージに応じて求められる研究費の性質や規模は変化する.独立前には研究費の獲得実績が将来のポスト獲得に直結し,独立直後および安定期には研究室運営の基盤として継続的かつ相応の規模の資金が必要となる.一方,キャリア後期においては研究費の必要性が相対的に低下するようにも見えるが,実際には長年の研究の発展に伴い,新たな展開を支えるための大規模な資金が求められることも少なくない.すなわち,研究活動を継続する限り,研究費の確保は常に重要な課題であり続ける.

筆者自身の経験を振り返ると,研究費獲得は必ずしも順風満帆ではなかった.独立前,グレリンというホルモンの発見直後に自信をもって科研費基盤研究(B)に応募したものの,当初は不採択という結果に終わった.しかしその後,追加採択を得ることができ,この経験が独立した研究者としての一歩を踏み出す契機となった.実際,この採択を機に,大学における教授選への挑戦を決意するに至った.

独立後は,当時存在した基盤研究(B)(展開)を含め,複数の競争的資金の採択を得ることができ,研究室立ち上げの重要な基盤となった.さらに民間財団からの研究助成も積極的に活用し,実験機器の整備を進めることで研究環境の充実を図った.このように,多様な資金源を組み合わせることは,研究の立ち上げ段階においてきわめて有効である.

研究室が一定の規模に達した安定期には,大型研究費に分担研究者として参画する機会を得た.しかし,研究室の規模に比して資金規模が大きい場合,計画的な執行やマネジメントの重要性が一層高まることを痛感した.研究費は獲得すること自体が目的ではなく,それをいかに適切に運用し研究成果へと結実させるかが問われる点も,キャリアの進展とともに強く認識されるようになる.

さらにキャリア後期においては,新たに受容体の結晶構造解析に取り組むなど研究の展開を図った結果,再び大規模な研究費が必要となった.この際には科研費に加え,民間財団助成や,大学からの教室研究費など複数の資金を組み合わせることで対応した.研究テーマの深化や高度化に伴い,キャリア後期においても依然として資金確保が重要であることを示す一例である.

近年,科研費制度においては若手研究者を対象とした支援の拡充が図られており,研究活動スタート支援や若手研究など,初期キャリアにおける研究基盤形成を後押しする制度が整備されている.一方で,中堅・シニア世代においては競争環境の厳しさに加え,民間財団の応募資格の年齢制限などにより,研究費獲得の機会が相対的に制限される側面も指摘される.今後は,キャリア全体を見据えたバランスのとれた支援の在り方についても議論が求められるであろう.

本特集で取り上げる研究費は,学振特別研究員,科研費,さきがけなど多岐にわたる.こうしたキャリアステージごとの研究費獲得の実態と課題に焦点を当て,それぞれの段階においてどのような戦略が有効であるかを多角的に紹介する.執筆者の先生方には若手から中堅,さらにはシニア研究者にとっても実践的な示唆を提供していただいた.それが多くの読者にとって今後の研究活動の一助となることを期待したい.

児島将康:1984年3月宮崎医科大学医学部卒業.日本学術振興会特別研究員などを経て,国立循環器病センター研究所生化学部室長.2013年4月から久留米大学分子生命科学研究所遺伝情報研究部門教授.’24年3月に退職し,久留米大学名誉教授・客員教授になるとともに,ジーラント株式会社を立ち上げた.主な受賞歴として,高峰譲吉賞,日本内分泌学会学術賞,クラリベイト引用栄誉賞など.著書に「科研費獲得の方法とコツ(羊土社)」「科研費申請書の赤ペンハンドブック(羊土社)」など.